20-2 心の中の消えない傷
「……だから、こうして一緒にいられればいい」
「なぜ俺なんだ?」
「なぜって」
「なぜ俺でいいんだ? なぜ、お前にあんなひどいことをした俺でいいんだ?」
「それは……」
「お前の正体を知ってるからか? グループのことを知ってるからか?」
「……」
「そこまで話すほど、なんで俺を信用したんだ?」
「……」
「俺は、お前が心の底から嫌ってる人間なんだぞ」
「それは……」
「俺は、お前にとって、どういう場所にいるんだ?」
「どういう場所?」
「今、俺たちは向かい合ってソファに座ってる。これだけの距離が俺とお前の間にある。まだこれだけ離れてるんだ。これで傍にいると言えるのか? この距離が、お前の言う、傍にいてくれるだけでいい距離なのか?」
さらにラルが困った顔をすると「どうなんだ?」と聞いてくるので「脚のケガが大分良くなった後、湖に行って、エミアたちに基地から出ていくことを話した。ショウが、私のあとを付けてきたときのこと」
「やっぱり、そのことを言いに行ったのか」
「私は一人で基地から出ていこうと思ってた。そう彼女たちに話した。その時に言われたの。今を考えなければ先はない。今現在、どうすればいいのか考えるべきだ。今、誰に傍にいてほしいのか。誰に傍にいてもらいたいのか。まずはそれを考えろと」
「それから?」
「それから、ショウは、私にとって、貴重な存在だと言われた」
「……そうか」
「その日の夜、これらのことについて考えた。でも、なにひとつ答えが出なかった。
今を考えなければ先がない。今の私にはなにを考えたらいいのかすらわからない。
今現在、どうすればいいのか。最初になにをやったらいいのかわからない。
今、誰に傍にいてほしいのか。誰に傍にいてもらいたいのか。誰が私にとって傍にいてくれたらいいのかわからない。
なにもわからないの。ショウは、私にとって貴重な存在だと言われた。でも、貴重な存在ってどういうこと? どうして貴重な存在なの?」
「今、お前が考えなければならないのは、心の中のことを話せる存在が傍にいるか。
今現在どうすればいいのか。その存在を見つけること。
今、誰に傍にいてほしいのか。誰に傍にいてもらいたいのか。
言い換えれば、お前が寂しいときや苦しいとき、誰に傍にいてほしいのかということ。
誰か浮かんだか?」
「……」
「いなかったのか?」
「そのことをエミアに聞かれたとき……ショウの顔が、浮かんだ……」
「なぜ?」
「……わからない。わからないけど、ショウの顔しか、浮かばなかった」
「そうか……これで、安心してお前の傍にいられるよ」
「なんで? 私ちゃんと答えてない」
「誰に傍にいてほしいのかと聞かれたとき、俺の顔が浮かんだという言葉だけで十分だ」
「なんで?」
「俺も、お前の傍にいたいから」
「……」
「今ある俺たちの間のこの距離は、埋められる」
「……」




