20-1 心の中の消えない傷
「その後、俺はジッとしてられなくて、彼女が入院してる病院に行って彼女の担当医に会い、傷の具合を聞いた。金ならいくらでも出すから、彼女の顔のキズをきれいに消してほしいと頼んだら、担当医が、腕のいい整形外科医を紹介してくれて、そこで顔のキズを消してもらったんだ」
「……彼女……今は、どうしてるの?」
「優しい旦那とかわいい子供たちに囲まれて、幸せに暮らしてるよ」
「そう、良かった」
「この事があってから、相手が気になる素振りをしたとき、ホッとかないでちゃんと聞くことにしたんだ」
「……そうだったの」
「お前が彼女と同じ目に遭ったとき、自分に腹が立ったよ。俺は誰も守れないのかって」
「あれはショウのせいじゃないって言ったでしょう?」
「彼女のときとまったく同じじゃないか! 同じ目に遭わせておきながら、俺はその事にまったく気付かなかった!」
「ショウのせいじゃないって。あの事はショウの知らないところで起こったんだから」
「いや、俺のせいだ。お前の顔にできたアザの原因を知ったとき、お前の前から消えようと思った」
「ショウ!」
「お前を守らなければならない俺が、逆にお前を傷つける。俺は自分が許せなかった。そんな時、お前が俺から離れようとしてた。俺は考えた。このまま行かせたほうがいいのかどうか」
「……」
「しかし、このまま黙って行かせるんだったら、どうしてお前と一緒に任務をこなしてきたのか。ここで離れるんだったら、今まで一緒にいた意味がなくなる。俺は、なんのためにお前と一緒にいるのか。なんのためにここまで一緒に来たのか、意味がなくなる」
「……」
「ここでお前と別れたら、彼女のときと同じことになる。あの時と同じように後悔だけが残る。
彼女はあの後、就職していい男に巡りあえ、幸せに暮らしてるが、お前はそうなる状況じゃない。
だからお前と離れなかったわけじゃない。
お前と一緒にいたかったから、お前の傍にいたかったから、離れることができなかった。
頭の中では離れたほうがいいと思っても、心がそれを認めない。体が言うことを聞かない。
ラル、答えをくれ。俺はどうしたらいいんだ?」
「そんなこと、私に聞かれても……」
「今も心の隅にこの事が残ってる。俺のことが原因で、またお前が傷つくようなことが起こるんじゃないかという不安がある。
傍にいてくれるだけでいい。お前はそう言った。けど、本当にそれだけでいいのか不安になる。
俺はお前の傍にいるだけで、降りかかる災難から守り切ることができてない。
この状況が俺を不安にさせるんだ。
一つだけでいい。漠然としたものではなくて、確かなものが欲しいんだ。
このままお前の傍にいていいという、確かなものが欲しいんだ」
そう聞かれてラルが困った顔をすると「どうして傍にいるだけでいいんだ?」
「エッ?」
「どうして傍にいるだけでいいんだ?」
「どうしてって」
「傍にいるだけとは、どういうことを意味するんだ?」




