18-3 ラルの家族
「母が家にいるとき、お茶を飲みにきてた友達は、父の同僚の奥さんたちだったの。
みんなで寂しさを紛らわせてたんだと、あとでわ分かった。
その中で、母は他の奥さんたちを勇気づけるために、いろいろな事をしてみせてたの。
愚痴を言いに来る奥さんたちを見て、自分も弱音を吐いたらいけないと思ってしまったんだと思う。
誰にも胸の内を話せなくて、苦しんでたんだと思う」
「他人を思いやるあまり、自分の中の悩みが吐き出せない状態になってしまったんだな」
「父が休みを取った一週間、私は友達の家に泊って、二人だけの時間を母にあげたの。そして一週間後、母が父と一緒に、友達の家に迎えに来てくれたの」
「お袋さんは嬉しかったろうな」
笑顔を向けるとラルも笑顔を返し「次の日、母と一緒に仕事へいく父を見送った後、母が、素敵な一週間を作ってくれてありがとうって。
そして、父から手紙で、
大切な妻を失わずに済んだよ。
これからは母様を大切にするから、心配しないでね。
そして、父様を嫌いにならないでね。
それから父は、どんなに仕事が忙しくても、二、三ヶ月に一回、連休を取って、私たちと一緒にいるようになったの」
「そうなのか。よかったな」
「私はとても嬉しかったけど、母の変わりようはすごかった。父の休みが近づくとウキウキしだして、あれを作ってあげるんだとか、こういうことをしてあげるんだって、少女のように顔を輝かせて、メイドさんたちと新しい料理の話をするようになったの」
「いい事じゃないか」
「父は、そんな母のことをメイドさんたちから聞くと、とても照れくさそうな顔をしてた」
「ハハハハハッ,そっか!」
「母をあんなにかわいく変えてしまう父。その父を裏から支えて、照れくさそうな顔をさせる母。私もこんなふうに、お互いを支え合えるような関係を築ける誰かと会いたいと思った」
「いつまでも、お互いを想う気持ちが続く関係は、一番いいな」
「そうだよね」
「いろいろあったけど、そのあとが良くなってよかったな」
「でも、私が気付かなかったら、きっと母は、潰れてしまったと思う……」ラルが暗い顔をするので「いや、そんなことにはならない」
「どうして?」
「その前に、親父さんが気付いてたはずだからだ。ラルが書いた短い手紙ですぐに行動したくらいだから、常にお袋さんの表情を見てたんだろう。そして、明らかに今までと違う行動をしはじめたら、すぐに気付いたはずだ」
「……そうかな?」
「お前の両親に会ってみたい」
「どうして?」
「今の話を聞いたら、会ってみたくなった」
「会ってどうするの?」
「親父さんに、女性の気持ちを汲むにはどうしたらいいか、ご教授いただきたくなった」
「なにそれ」
「そういえば、ラルはどっちに似てるんだ? 親父さんか? それともお袋さんか?」
「親戚からは、父に似てると言われる」
「ヘェ。じゃあ、親父さんはイケメンなんだ」
「そうね。私が最初に好きになった男性だから」
「それほどいい男なのか?」
「だって、仕事はできるしスポーツ万能だし、女性に優しいし気遣ってくれるんだもん。その上イケメンだったら、言うことない」
「それだけ揃ってたらでき過ぎだな。男がコンプレックスを抱く身長とか学歴とか、なにか欠点はないのか?」
「人間界でいう学歴はそれなりにあるけど、父様の身長は平均かな。それほど高くはないよ。体格も平均だけど、メジャーなスポーツならこなしてたし、脱ぐとすごいって感じかかな」




