17-1 食事会
彼らを見送った後、ゆっくり階段を上がっている途中で「ディナーの話を引き受けていいのか? イヤなら断ってもいいんだぞ」隣のラルに聞くと「断り続けたら、なにをしてくるかわからないでしょう? そうなる前に、行ったほうがいいと思ったの」
「お前がいいと言うのなら、俺は構わないけど」
「私のことを恋人だと彼らに紹介したんだから、そこのところは考慮してよ」
するとショウはニッコリ笑って「それはもう、いくらでも考慮しますよ」
「程ほどでいいからね」
「程ほどなんて、中途半端なことができるかな?」
「お願いだから、程ほどにして」
「できるかな?」
「……ショウ」
「難しいな」
楽しそうな彼を見て、言うんじゃなかったと後悔する。
約束の午後七時、一階奥のダイニングルームには、ラルたちとグランチェスト夫妻に娘のフレンティーヌが、窓際の予約席に座っていた。
(これ見よがしに、一段とすごい服装)向かいに座る母娘の服装を見てのラルの感想。(傍から見てる人達は、私たちに同情してくれるかしら?)
かなり不釣り合いな組み合わせに見えるだろう。
かたやオートクチュールの服を着るお金持ちで、もう片方は普段着の一般人である。
ベテランのウエイターがグランチェスト氏のところへ来て、ディナーを始めていいかと尋ねるので「始めてくれたまえ」と答えると「かしこまりました。では、早速お飲み物をお持ちいたします」
その後、食前酒のシェリー酒が出てくると「では、神様がお与えくださった良き今日を祝って、乾杯しよう」グランチェスト氏がグラスを持つとそれぞれ持ち、乾杯して一口飲む。
そして、オードブルが出てくるとグランチェスト氏が話しはじめる。
「まず自己紹介から始めようか。私は北欧で大型船舶専門の造船所の経営をしている。この大陸にはお得意様が何名かいるので、挨拶がてら、家族旅行に来てるんだ」
「大型船舶専門の造船所を経営されていらっしゃるんですか。かなりの実業家でいらっしゃるんですね」
グランチェスト氏の向かいに座っているショウが褒めると「いやいや、私の父が小さいながらも事業を始めて、私の代で大きくしていったんだが、まだまだ若輩者だよ。見習うべき先輩方がたくさんいる」と言いつつ、エネルギッシュに話す。
「そして、ここまでやってこれたのは、妻や娘がいつも助けてくれたからだ。二人には感謝してるよ」
「わたくしの力なんてほんの僅かですわ。すべてあなたの力で大きくなったんですよ」照れながらも夫人が返すと「とんでもない。君に会えていなかったら、きっと私はここまで頑張れなかっただろう」
「あなた……」
「いいお話し過ぎて、焼けてしまうわね」ラルが右隣のショウに話を振ると「羨ましすぎて、やっかみたくなるな」
「まあ、お二人とも、そんな事をおっしゃらないで」夫人が顔を赤らめる。
「妻は生まれつき身体が弱くてね。些細なことで寝込んでしまうんだよ。それなのに、私の世話をよくやってくれてね。娘も大学を卒業してから私の事業を手伝ってくれるようになってね。今回は、私から二人へのお礼の意味を込めた旅行でもあるんだよ」
「お父様は世界一やさしい父親ですわ。わたくしの自慢ですもの」にこやかに笑うフレンティーヌ。
「ありがとう。私は世界一の娘を持ったよ」
「あなたのお父様はどんな方なのかしら?」フレンティーヌがラルに話を振るので「私の父も、自慢の立派な父です」と返事をする。




