16-2 カフェでのティータイム
「なに、どうした?」
「エッ、ああ、なんでもない」
「お前のなんでもないは何かあるからな。なんだよ」
「ちょっとしたことだから」
「そのちょっとしたことって?」
「……お礼は、どこで買えるかなって」
「町にあるだろう。外に出られるようになったら、買いにいこう」
「……そうだね」
「なんだよ。なにを気にしてんだよ」
「このプリン、おいしい」
「ラル!」と言うと、口をへの字にするので「怒らないから言ってみろ」
「……お金、ない」
「だから? ああ! 俺が買うよ」
「……私がお世話になった」
「だから、俺が代わりに買う」
また口をへの字にするので「その口はやめろ」
「あとで返す」
「前に言っただろう。休憩してる間は俺が金を出すって」
「でも……」
「ラルが元気になればみんな喜ぶ。それがお礼になるから、出発するとき、元気な顔で行けるようにすることが一番だ」
その後、二人はお茶を飲みほすと席を立った。
「今日も奢らせちゃった」
「お茶くらい、奢って差し上げますよ」
「……ごちそうさまです」
二人が階段へ向かうためにロビーを横切ろうとしたとき、グランチェスト夫妻と娘のフレンティーヌが、離れに通じる奥の通路から歩いてきた。
相変わらずこのホテルに似合う服装をしている。
「やあ、ショウ君。これからお茶を飲もうと思うのだが、一緒にどうかね? おや、そちらにいる女性が君の連れかね?」グランチェスト氏が声を掛けてくるので「はい、そうです」
「そうか。先日は大変な失礼をしてしまい、申し訳なかった。体のほうはどうかね?」
ラルに声を掛けてくるので「よくなってきました」と返事をすると「初めまして。グランチェストの妻のクリスティアですわ。この度は大変失礼なことを致しまして、申し訳ございません」夫人が軽く頭を下げるので、「もう気にしてませんので、お気になさらないでください」
「わたくしのワガママでご迷惑をお掛けして、お顔を合わせるのが恥ずかしく思いますわ。ご体調が良くなられて、本当に良かったですわ」娘のフレンティーヌが笑顔で話し掛けてくるので「気遣っていただいてありがとうございます」ラルも笑顔で答える。
「ところで、ディナーに招待する件だが、連れの方の具合も良くなられたようなので、今夜あたりどうかね?」グランチェスト氏が誘ってくる。
「そうですね」ラルを見ると頷くので「ダイニングルームで、とおっしゃるのでしたら、お受けいたします」
「では決まりだ。今夜の午後七時からでどうかね? 段取りは私に任せてもらおう」
「すみません。まだ彼女が医者から言われてる食事を取っているので」
「そうなのか。では、そのことも伝えておこう」
「ありがとうございます」
「では、その前に、これから一緒にお茶でもどうかね?」
「申し訳ないのですが、今、飲んできたばかりなので」
「そうか。お誘いするのが少し遅かったようだね。では、またの機会にお誘いするとしよう。それでは今夜、楽しみにしてるよ」
「はい。では失礼します」
ショウの返事を聞いて、グランチェストたちはカフェに入っていった。




