16-1 カフェでのティータイム
部屋で昼食を食べた後、ショウに付き添われてゆっくり階段を降り、正面玄関横にあるサンルームのカフェに入ると、昼食を食べ終わった客が、暇つぶしにおしゃべりをしに来ていた。
入れ違いに窓際のテーブルがあいたので、ウエイターがテーブルを片付けた後、向かい合って座る。
外は相変わらずの雨。
ラルが灰色の空を見て「そろそろ体にカビが生えそう」と言うので「さすがにそれはないだろう?」と苦笑する。
店内に掛かる音楽はソウル系で、雨音が妙なバランスを取っている。
ふとラルの目に、テーブルの上のショウの手が写った。
(大きな手。長い指だな。そういえば、ショウの手なんてジックリ見たことなかったな。細長くてきれいな形の爪。マニキュアが似合いそう。何色がいいかな? サーモンピンクがいいかな?)
「どうした? 俺の手、変か?」指を開くと「マニキュアを塗ってみたい」
「エ? マニキュア?」
「似合いそう」と言われて自分の爪を見ると「それはちょっと……」
真っ赤なマニキュアが、自分の爪に塗られているところを想像してしまった。
「塗ってみたい」
「いや、それはちょっと……遠慮したい」複雑な顔をする。
まさか、そんなことを言われるとは思ってもみなかった。
「きっと似合うと思う」
「似合うと言われても……」
「いいな」
「なんで?」
「きれいな指だから、きっと映えると思う」
「そうか?」眉間にしわを寄せる。
「いいな」
「お前の指だってきれいじゃないか」
「そんなことないよ。ほら、右手なんか人差し指が曲がってるでしょう? 前に突き指したとき、こんな風になっちゃったの」右手を開いてみせ「不格好でしょう?」
そう言うと手を引っ込めて悲しそうな顔をするので、ショウはラルの手を取り「小さくてかわいい手だよ。痛かったろう?」するとすぐに手を引っ込め「こんな手、見られるの恥ずかしい」
「恥ずかしがることない。ラルが今まで頑張ってきた証拠なんだから」
「女の手じゃないよ」
「……ラル」
「まあ、今さらどうこう言っても始まらないけどね」頼んだ紅茶が来るとティーポットからカップに入れ「元に戻らないんだから、もう諦めてる」紅茶が飲みやすい温度になるまで、生クリームが乗ったマンゴープリンを嬉しそうに食べはじめる。
ショウが黙っているので「どうしたの? 飲まないの?」
「エ? ああ」
「それにしても、よく降るね」窓の外を見ると「そろそろ小雨になってもいいのに」
「それでもだいぶ収まってきたから、昨日、調理師の人が、やっと食料を買い出しにいけると言って、数名のシェフと調達に行ってたぞ」
「そうだよね。そろそろ食糧庫の食材も底を付くころだよね。でも、その中でこうやってスイーツを作ってるなんて、シェフの人達はすごいね」
「ラルの食事も特別に作ってもらってるから、お礼をしないといけないな」
「そうだよね。お礼を考えないと……」




