29-2 恋人のフリ
鬱蒼と茂った椰子の木の間にある穏やかな坂道を下っていき、少しすると、ポツンポツンとコテージが見えはじめた。
「ずいぶんと距離を空けて建ててあるのね」
「いくら騒いでも他のところに迷惑が掛からないようにしてあるから、遅い時間までお楽しみくださいと説明書に書いてあるよ」
道の右側にコテージが建ち、左側にはずっとビーチが続いている。
「プライベートビーチだってさ」
「ここの所有者はお金持ちなのね」
ビーチ沿いに歩いていくと「至るところに小さなレストランがあるよ」案内地図を見るので「受付がある建物まで戻らないといけないかと思ってたけど、近くにあるのね。どんなお店があるの?」
「店によって違う料理を出すらしい。選ぶのに迷いそうだな」
「それは楽しみね。ところで、まだなの?」
「もう少し先に行ったところだ。ほら、あれだ」道から少し奥まったところにあるコテージを指す。
そのコテージは亜熱帯特有の木に囲まれ、大きなテラスが付いた少し大きめの建物だった。
玄関まで続く階段の下へ行くと「思ってたより大きいわ」建物を見上げる。
「広いほうが落ち着くだろう?」
「ええ。で、これはあんたのコテージなの?」
「エッ?」
「だから、これはあんたが泊まるコテージかって聞いてるの」
「そうだよ」
「じゃあ、私のコテージはどれ?」ポツンポツンと見える周りのコテージを見ると「一つしか借りてないよ」
「……エッ?」
「だから、一つしか借りてないと言ってるんだよ」
「冗談でしょう?」
「冗談なもんか」
「なんで!」
「何言ってんだよ。別々に泊まったら怪しまれるだろう」
「あんたと一緒なんて絶対イヤよ! 他のコテージを借りてくる!」戻ろうとするので「アレンの手先がウロウロしてるぞ」
「バレるわけないでしょう!」
「じゃあ勝手にしろよ。まあ、受付にいって別のコテージを貸してくれと言っても、来た早々ケンカしたと思われて、慰められて、追い返されるのがオチだろうけどな」そう言うとサッサと中へ入っていく。
居間に荷物を置き、各部屋を見回って玄関に戻ってくると、キラが階段下で突っ立っているので「どうすんだよ」声を掛けると、しかめっ面を作って見上げる。
「部屋はたくさんある。好きなところを幾つでも使えばいいだろう」と言い残し、中へ入っていく。
シャワーを浴びて部屋へ戻ろうとすると、居間にむくれた顔をしたキラが座っていた。
「荷物はどうした?」
「部屋に置いてきた」
「じゃあ、飯でも食いに行くか。財布取ってくる」




