11-3 ティータイムの珍事
ここで紅茶が運ばれてきたので「いただきます」ショウが口を付けると、グランチェスト氏が「今回のお詫びに、今晩、ディナーに招待したいのだが、来てもらえないかね?」
「今晩ですか?」
「ぜひいらしてください。お食事は大勢のほうが楽しいですもの」フレンティーヌが笑顔で声を掛けると、グランチェスト夫人が「ここの支配人に、あなた方も旅行をされていらっしゃると伺いました。実はわたくしたちも旅行の途中で、これからこの大陸を周るところですの。ぜひ、今まで行かれたところのお話を聞かせていただきたいわ」
「大変申し訳ないのですが、ここが最初の訪問地なものですから、話はお聞かせできないのです」
「まあ、それでお連れの方が具合を悪くされてしまわれたなんて、お気の毒としか言いようがありませんわ。それで、これからどうなさるおつもりですか?」
グランチェスト夫人もショウのことが気に入ったらしく、娘を差しおいて話し続ける。
「スケジュールはきっちり決めていませんので、しばらくの間、ここに留まるつもりです」
「そうですわね。そのようになさったほうがよろしいですわ」
「ところで、不躾なことを聞くようだが」夫人がお茶を飲んでいる隙に、グランチェスト氏が声を掛けてくる。「連れの女性は、君とどのような関係の人なのかね?」
「彼女ですか? 僕の恋人です」
「ゴホゴホッ!」注文したケーキを食べていたラルはむせてしまい、慌てて紅茶を飲む。
「そうなのか。君の恋人なら、さぞかしきれいな女性なのだろうね」
「はい」
「ゴホゴホゴホゴホゴホッ!」
「ぜひ彼女に会わせてもらえないだろうか。直接お詫びを言いたい。彼女に謝罪するのが本当だからね」
「そのお心遣いだけで結構です。きっと彼女もわかってくれます」
「いや、それでは私の気が済まない。ぜひ会わせていただきたい」食い下がると娘のフレンティーヌが「そうですわ。お会いして直接お詫びを言わせていただきたいわ。わたくしがいけないんですもの。その機会を作っていただけませんか?」
「せっかくですが、まだ体調が思わしくないので、お気持ちだけ伝えさせていただきます。それと、ディナーに招待されることを考えていませんでしたので、服を持ち合わせていないのです。申し訳ないのですが、こちらもお断りさせていただきます」
「なに、普段着で構わんよ」
「しかし、突然のお誘いですし、彼女の体調もまだ思わしくありませんので」
「そうなのか。では、日を改めてお誘いしよう」
「では、僕はそろそろ失礼します。ご馳走さまでした」
ショウは席を立つと、カフェから出ていく。




