11-2 ティータイムの珍事
「お父様。ぜひ彼とお会いになってくださらないかしら? きっと、お父様も好感を持たれると思いますわ」向かいに座っている父親に話しかけると「そこまで言うのなら、一度会って話をしてみたいね」隣にいる妻を見て「君は会ったことがあるかね?」
「いいえ。でも、どのような方なのか、話は聞いてますわ」フレンティーヌを見る。
(きっとショウに会えということね)
ホテルに泊まっている客の中でショウくらいの年の男性はほかにいないので、彼女が興味を引くのは彼以外にいない。
「しかし、その男性は連れの女性と一緒に泊ってるらしいじゃないか」
「わたくし、そのようなことは気にしませんわ」
「フレンティーヌ。こういうことはきちんと確認しなければいけませんわ。ねえ、あなた?」
「そのとおりだ」頷くグランチェストが左手を上げると、出入り口近くのテーブルに座っている二人組の男性の片方が立ち上がり、彼らのほうへ歩いてくる。
男性はラフな服装をしているが、目付きや体格から一目で彼らのボディガードだとわかる。
「なにか」腰を屈めてグランチェストに耳打ちすると「私たちと部屋を交換した、三階のスイートルームに泊ってる客のことを、フロントで聞いてきてくれたまえ」
「かしこまりました」
ボディガードが一礼してテーブルから離れようとすると「僕になにか御用でしょうか?」ラルの右横から声がしたので振り向くと、ショウが立っていた。
「三階のスイートルームに泊ってるのは僕です」
「お父様、この方ですわ」フレンティーヌが嬉しそうに父親に紹介すると「そうか。ちょうどよかった。話があるんだが、少し時間をくれないかね?」
「話とはどのようなことでしょうか?」
「この長雨で足止めを食ってね。同じホテルに居合わせたのもなにかの縁だ。一緒に暇つぶしでもどうかね?」向かいのフレンティーヌの隣の席を勧めるので「そういうことでしたら、ご一緒させていただきます」
ラルの前を通ると勧められた席に座るので、ラルは他人のフリをしてさらに耳を傾ける。
グランチェスト氏がショウに飲み物を聞いて注文すると「まず最初に、君に謝らなければならない」と声を掛け「先日は、君の連れの女性が体調を崩して横になっているというのに、こちらの勝手な都合で部屋を移動させてしまって、申し訳ないことをした」
謝罪すると、隣の席のグランチェスト夫人も「本当は、もっと早くお詫びに伺わなければいけませんのに、こんなに遅くなってしまい、重ね重ね、失礼を致しました」と続ける。
「ご丁寧にありがとうございます。これからは、このようなことはなさらないようにお気を付けください。ご夫妻の評判を損ねることになりますから」
「もちろんだとも」
「お許しくださってありがとうございます」
グランチェスト夫妻の顔に笑みが浮かぶ。




