11-1 ティータイムの珍事
「やっぱり次があったね」リビングのソファに座っていたので、お嬢様の姿はドアで見えなかったが、会話は聞こえていた。
「これでもう来ないだろう」
「それはわからないよ」
「俺には、一緒にお茶を飲んでくれる相手がすでにいますからね。お姫様、もう一杯いかがですか?」ティーポットを差し出すので「あら、いただきますわ」
雨が降り出してから五日が過ぎた。
今日はものすごい風がゴーゴーと吹き、プールをひっくり返したような土砂降りの雨が降って、外の景色がまったく見えない。
今、午前十時なのだが、どす黒い雨雲が空を覆っているので薄暗いため、時間の感覚が狂ってしまいそうになる。
最近ショウは、朝食を食べ終わると自室へ戻って何かしていた。
きっと、アディかグループと連絡を取る時間なのだと思い、ショウの部屋へ行くといつも追い返されてしまうので、これは当たっているだろう。
ラルとしては、なんとしてもグループとコンタクトを取りたいので、ショウがいない間にノートPCを使おうと考えていたのだが、部屋の鍵も続きドアの鍵も彼が持っていて、ショウが部屋にいないときは開けられないようになっていた。
(フロントに合鍵をもらいに行っても、ショウに止められてるから渡せないなんて言われるなんて、思わなかった)
ラルはリビングの窓から外を見ていたが、キッチンへお茶を入れにいった。
「エミア。いくらなんでも降らせ過ぎだよ」
このところ、大雨のせいで起きた自然災害のニュースをテレビが報道している。
ラルが恐れていたとおり、内陸部へ行く幹線道路が土砂崩れのために通行止めになっていた。
(万事休す)
どう考えても、復旧工事が始まるのは雨が上がってからだろう。
ティーセットをテーブルに置くと、ソファに座って紅茶を飲みはじめる。
(どうしよう……)
雨が上がるまで、まだ十日近くある。
それまでに、なにかいい手が見つかるといいのだが。
(道路が復旧するまで身動き取れないな)
他のことを考えながら入れた紅茶がぬるすぎて味が気に入らなかったため、気晴らしついでに一階のカフェに行って飲もうと思い、財布を持って部屋から出ると、ゆっくり階段を降りていく。
エントランスの左横にあるサンルームを利用したカフェは白を基調にした部屋で、テーブルの間隔が広く取られ、クラシック調の音楽がかかっている。
中に入ると、窓際の中央の席に、グランチェスト夫妻と娘のフレンティーヌと思われる家族が、向かい合わせに座ってお茶を飲んでいた。
ラルは彼らと会ったことはないが、娘のフレンティーヌと会っているショウに、彼女の容姿を聞いていたのですぐにわかった。
この長雨で足止めを食らった泊り客が気晴らしに来ているので、そこそこ席が埋まっていたため、ラルは彼らの席からテーブルを一つあけた室内側に座り、紅茶セットを頼む。
盗み聞きをするつもりはないのだが、ナディアと同じような性格のフレンティーヌがショウを気に入っていることを知っていたので、これからどんなことを仕掛けてくるのか、知る必要があった。
なんといっても、ショウと一緒にいるラルが一番影響を受けるのだから、対策を立てておこうと思うのは当然である。




