29-1 恋人のフリ
ものの五分も走ったところに目的のコテージがあり、駐車場に車を停め、荷物を持って受付がある建物へ向かう。
「ここにレストランがあるわ」入り口のところに置いてある看板を見ると「先に荷物を置きにいこう。手ぶらなほうがいい」
中に入ると観光客らしからぬスーツを着た男が二人、受付カウンターの端で帳簿を見ていた。
その男たちは入ってきたショウたちに気付くと、手を止めて鋭い目を向けてくる。
その視線を無視して受付にいるクラークに「すみません、予約してるんですが」声を掛けると「いらっしゃいませ。お名前をよろしいですか?」
「ショウ・スペングレーです」
「スペングレー様。二名様で三日間のご予約ですね?」
「そうです」
「お待ち致しておりました。では、こちらにご署名をお願い致します」
出されたタブレットにサインをしていると、例の男たちが声を掛けてきた。
「失礼ですが」
「はい」
「ちょっとお聞きしたことがありますので、少しお時間をいただけませんか?」
「ええ、構いませんが」少し戸惑いながら答えると「お二人は、いつこの島へ来られたんですか?」
「今日です」
「何時の船で来られたんですか?」
「午前九時の船です」
「この時間までどこにおられたんですか?」
「あの、俺たちが何かしたんですか?」
「いえ。実は人を捜してまして。もしかしたら、どこかで会われてるかもしれないと思ってお聞きしてるんです。協力していただけませんか?」
「はあ」
「で、着いてから、どこへ行かれたんですか?」
「えっと、レストランで朝食を食べて、亜熱帯植物園に行って、その後、この先のビーチで海を眺めてました」
「どこのレストランで朝食を取られたんですか?」
「そんな事まで言わないといけないんですか?」ちょっとムッとして言い返すと「すみません、教えていただけませんか?」
「……ビーチ沿いの、サーファーがたくさんいるレストランです」
「ああ、あそこですか」
「他に何か?」
「途中で、長い金髪をカールした、青い瞳の小柄な女性を見掛けませんでしたか? 観光で来てるようなんですが」
「そう聞かれても、金髪の女性はたくさんいますから」
「どうやら一人で来てるらしいんですが、そういう女性に心当たりはありませんか?」
「……特に、ありませんね」
「そうですか。ご協力ありがとうございました」
男たちはお礼を言うと、フロントに帳簿を返して出ていく。
「大変申し訳ございません。とんだご迷惑をお掛け致しました」クラークが頭を下げるので「気にしてませんよ。これでいいですか?」サインしたタブレットを渡すと「ハイ、結構です」
二人は鍵とコテージまでの案内地図をもらうと、建物から出た。
「総動員で捜してるみたいだな」後ろを歩くキラに声を掛けると「さて、俺たちのコテージはどこだ?」もらったパンフレットを見て位置を確認する。




