10-1 お茶のお誘い
無理やり部屋を移動させられたが、スイートルームというだけあって部屋の設備が整っているため、人を呼んだり移動する手間が省ける分、助かっていた。
スイートルームはリビングと寝室の二部屋あり、リビングの左側にある二つのドアのうち、南側のドアは隣の寝室に繋がっていて、北側のドアは小さなキッチンと、その奥にシャワー室とお風呂場があり、隣にトイレ、洗面所がある。
そして、寝室からもキッチンへ行けるドアが北側に付いていた。
寝室の南側にはリビングと同じように窓があり、バルコニーへ出られる。
ベッドはセミダブルで、肌触りの良いシーツに通気性のいいカシミアの毛布。
そのベッドは左側の壁の中央に、頭側を壁につけた形で置いてあり、ベッドの北側には大きなクローゼットが置いてある。
右側の壁の前にはリビングよりも小さいがソファセットが置いてあり、やはり窓の外が見えるように配置してあった。
ベッドと南側にある窓の間の右側の壁には、隣のショウの部屋の寝室と繋がる続きドアが付いている。
そのため、ショウは廊下に出ることなく、ラルの部屋へ行くことができるようになっていた。
「ちゃんと鍵を掛けといて」
「なに言ってんだよ。そんなことしたら、なにかあったとき、すぐに来れないだろう?」
「なにもない」
「あったばかりじゃないか」
次の日もショウはラルの向かいに座って、借りてきた本を読んでいる。
雨が降りだしてからほとんどの時間、ショウはラルと一緒にいた。
(ずっと部屋にいるけど、あの家族ことをどうやって調べてるんだろう?)
不思議に思いながらも本から目を離すと、窓の外に目を向ける。
(すごい土砂降り)
ショウから、最低でも二週間は雨を降らせる予定でいるとエミアが言っていたと聞いているので(雨が降った後、主要道路で土砂崩れを起こして、道路が寸断されなければいいんだけど)
まだ本部へ戻ることを諦めていないので、その事が気になる。
大陸の東側は前回の雨で土壌が潤ったが、そのほかの場所ではかなり大地が乾いているため、幾つかの災害は免れないだろう。
(エミアたちにもこの事はわかってると思うけど、雨を降らせる期間を短くするつもりはないだろうな)
彼女たちがショウ側に付いてしまったことを知ったときはショックを受けたが、彼女たちが頼れないのなら、計画したとおり、車を使って戻ろうと決めていた。
「本を読むのに飽きたのか?」
「雨の日は、気分が憂鬱になる」
「じゃあ、気晴らしに、一階のカフェに行ってお茶でも飲むか?」
「遠すぎる」
「じゃあ、ルームサービスでも頼もう」
ソファ横のサイドテーブルに置いてある受話器を取り、紅茶とケーキセットを頼むと、電話口のクラークが “ショウ様を、お茶にお誘いしたいとおっしゃるお客様がいらっしゃるのですが、いかがいたしましょうか”
「誰ですか?」
“グランチェスト様のお嬢様のフレンティーヌ様でございます”
「グランチェスト? 俺たちを部屋から追い出したお嬢様?」
“……さようでございます”
「断ってください」
“かしこまりました” 返事を聞くと受話器を置く。




