8-2 お金持ち御一行
「まあ、離れがあるの? 今も使われてるのかしら?」
「はい。団体のお客様が貸し切りでお使いになられます」
「パーティの招待客用なら、内装も素晴らしいのでしょうね?」
「ご招待客されたお客様をおもてなしするために、特別に作られましたので」
「わたくし、あの離れに泊まりたいわ。お母様も、特別に作られたお部屋を見たいでしょう?」
「ええ。ぜひ拝見したいわ。すぐに移動してもらえます?」
「大変申し訳ございません。今、他のお客様がお泊りになっていらっしゃいますので」
「移動してもらうことはできないの? そうだわ。わたくしが泊っているスイートと交換すると言えば替わってもらえるでしょう?」
母娘は踵を返すとスイートルームへ戻り、父親に部屋を移りたいと話す。
「お父様、わたくし離れに泊りたいの」移りたい理由を話すと「君、すぐに手配してくれたまえ」
すると、案内してきたクラークが「申し訳ございません。現在、二名のお客様がご宿泊されておりますので、貸し切りにすることができかねる状態でございます」再度、移動できない理由を説明する。
「どういう人達が泊ってるのかね?」
「グランチェスト様と同じく、ご旅行されていらっしゃる方でございます」
「名のある人達なのかね?」
「いえ、そのような方ではございませんが」
「では、部屋を移ってもらいたまえ」
「申し訳ございません。そのようなご要望にはお応えしかねます」
「私の言うことが聞けないというのかね?」
「お泊りになっていらっしゃるお一人の方が、体調を崩されて横になっておいでですので」
「では、私の召使いを貸そう。スイートルームと交換すると言えば、嫌がる者などいないだろう」
「いえ……」
「すぐ手配するように言いたまえ。私たちは一階のロビーで待たせてもらおう」
クラークの言葉を遮ると、召使いたちに荷物をまとめるよう言い、一階へ降りていく。
トントン。
ラルの部屋のドアがノックされたのでショウが出ると、ホテルの支配人が立っていた。
「少しお時間をいただけるでしょうか」低姿勢で声を掛けてくるので「どうぞ」中へ入るとソファを勧めるが、支配人は断り「大変申し訳ないお願いをしにまいりましたので」困った顔をする。
「どうしたんですか?」理由を尋ねると「実は……」支配人は理由を話し「ここの売上金は組織の運営資金として、重要な稼ぎところでございます。ですから、ここで評判を落とすわけにいかないのでございます。どうぞご理解ください」深々と頭を下げるので「組織の運営資金を稼ぐためなら仕方ないな」
「申し訳ございません」もう一度頭を下げるので「支配人が気にすることないですよ。俺たちはタダで泊めてもらってるんですから」
「では、ご移動のお手伝いをいたしますので、お荷物の整理をお願いいたします」また頭を下げると部屋から出ていく。




