1-1 異変の確認
翌日、酔い止めの薬の効き目が良かったのか一食抜いたせいか全員朝食を完食し、午前九時過ぎには宿屋を出発した。
こまめに休憩を取りながら進み、その日の夕方、問題のオルトの領地に入ると、予定の西側の道路を進む。
「確かに、これだけ広い湿地帯だったら見晴らしいいな」
ショウが右手に見える広大な湿地帯を見ると、ラルはずっと空を見ている。
「それにしても、すごい数の鳥がいるんだな」珍しい光景に、カイがジープを停める。
後ろから付いてきているジープも停まり、運転席のドライバーは鳥の大軍を珍しそうに見ているが、同乗している彼らはラル同様、不安そうな顔をして、湿地帯にいる鳥を見ている。
「すげえ! これだけいたら芋洗いじゃなくて鳥洗いだぜ!」
「カイ、うまいこと言うな! 動画を撮って、あとで本部に送るか」助手席のメンバーが、携帯を取り出して動画を撮りはじめる。
「このままじゃ、餌が無くなって全滅してしまうぞ」心配するショウが声を掛けるが、ラルは空を見上げたままなので、つられて見上げると、数名のイータル ヴェンティが飛び回っているのが見えた。
その日の夜、二軒目の宿屋にいるとき、夕飯を食べ終わったショウがラルの部屋に来ていた。
「オルトの領地の空域は、そんなに歪んでるのか?」窓際の椅子に座っているラルの向かいに座ると「うん、思ったよりひどい状態になってた。大地の気の波紋の広がり具合から見ると、思ってたより広範囲に影響が広がってたから、空域の歪みの中心はかなり危ないと思う」
「そうか……止められないか?」
「今のところなんとも言えない。詳しく調査したいけど、迂闊に近よると、巻き込まれて危険だから」困った顔をする。
「歪みの中心にある土地にも誰か住んでるだろう? その人達は大丈夫なのか?」
「アディのほうに、オルトの屋敷に潜り込んでる調査員から、彼の領地で異変が起きてると報告されてないんでしょう?」
「それはないと言ってた」
「じゃあ、まだ人体に影響があるほどじゃないんだろうね。でも、鳥たちは異変に気付いて、湿地帯のほうへ避難しはじめてた」
「それで、あれだけの数の鳥があの湿地帯にいたのか」
「そうだよ。彼らの領域である空が歪みはじめてるんだから、一番最初にわかる」
「言われてみればそうだな。で、あそこにいたイータル ヴェンティたちは、何をしてたんだ?」
「彼女たちは、空域の歪みがどのくらいのスピードで広がってるのか、調べてるんだよ」
「なるほど。しかし、本当に人間には彼女たちの姿が見えないんだな」
「どういう意味?」
「お前やほかのシルバーフェニックスたちが空を見て不安そうな顔をしたり、イータル ヴェンティたちの動きをハラハラしながら見てるのに、カイやほかのドライバーたちは、大群で動く鳥の動きと、湿地帯が見えないほど集まってる鳥たちを見て驚いてたからな」
「……そう、だね」




