71-2 姿なき領主
「湿地帯から侵入できないのか?」
「周囲二キロに渡って湿地帯が広がってるんだ。侵入すればすぐに見つかってしまう」
「面白いな。オルトの領地の三方はコルチネスとナスコットの領地に囲まれてて、唯一あいてる西側は湿地帯で侵入不可。まるで、二人の領主が匿ってるように見える」
「面白い半面、ここが一番のネックだ。奴らがどのくらいのシルバーフェニックスを幽閉してるのか、まったく掴めないんだ」
「だろうな」
「両脇の領主のところにいる情報部員は、まだ屋敷内へ潜り込めてない。もう少し時間が掛かると報告してきてる。彼らが情報を取るまで、ここには手を出さないでくれないか?」
「わかった。彼らが情報を取れることを祈るしかないのか」
「そうだ」
「ところでアディ。話があるんだ」
その日のお昼過ぎ、昼食を取ったショウは湖の西側にある入り江に行くと、ウィルシーを呼んだ。
『なにか御用でしょうか?』湖面から顔をだす彼女に「聞きたいことがあるんだ」湖の端に屈むと『どんなことでしょうか?』近寄っていく。
その後、ショウは湖から戻るとノートPCを持ち、ラルの部屋へ行くと、彼女はグループから送られてきた資料に目を通していた。
「何かわかったことがあるか?」向かいに座ると、ラルは難しい顔をして「オルトという名前はニックネームらしいわよ」
「オルトがニックネーム?」なんだって? という顔をすると「しかも、本名がどう調べてもわからないらしいの」
「どういうことなんだ?」
「もしかしたら、実体のない架空の人物かもしれない」
「架空の人物だって? 誰が、なんのために架空の人物を作る必要があるんだ?」
「それは、調べないとわからない」
「奴は裏世界の大物の一人だぞ。いくらなんでも、姿を現さなければ他の大物たちが黙ってないだろう?」
「代理を仕立てればどうとでもなるんじゃないの?」
「だとすれば、なおさら架空の人物を作る必要ないだろう?」
「架空の人物を作らなければならない理由がある、という場合はどんなことかしら?」
「その角度から調べてみると、何か出てくるかもしれないな」PCを開いて電源を入れる。
「その事はグループで追跡調査をしてくれることになってるから、情報が入り次第、連絡がくることになってる。で、そっちはなにか掴めたの?」
「ああ。今、調査内容をまとめた資料を添付して送る」ラルのPCにメールを送信すると、添付を開いて内容を読みはじめる。
「要注意人物がオルトの領地を囲ってるの? これは興味深い点ね」




