71-1 姿なき領主
次の日の午前中、リサーチルームにショウの姿があった。
本部のマザーデータからオルトの情報を引き出していると、アディが入ってきて「奴に付いてのデータは、まだ揃ってないよ」と言って隣の席に座るので「ああ、そうなのか」手を止める。
「興味を持つと思ってたよ。しかし、奴については、どんな方法でも同じ情報しか取れないんだ」困った顔をして「奴は滅多なことでは人前に出てこないんだ。だから写真もないんだよ」
「情報部員が、奴の領地内にある村に潜り込んでるんだろう?」
「ああ。奴の屋敷に潜り込んでる」
「それでも情報が取れないのか?」
「そうなんだ。だから、もっと詳しく調べるように言ってるんだけど」
「けど?」
「なに一つ、奴に関しての情報が掴めないと報告してくるんだ」
「屋敷内に潜り込んでるのに?」
「そう。屋敷の中には居るらしいんだけど、一度も会ったことがないと言うんだ」
「ということは……」考え込むので「何か気になることがあるのか?」
「その屋敷はカムフラージュの可能性がないか?」
「カムフラージュ? すると、奴は別の場所にいるということか?」
「その可能性はあるな」
「確かに」
「帰りに調べてくる」
「いや、それはマズい」
「なぜ?」
「君たちが通る場所と奴の屋敷がある場所が正反対だからだ。奴の屋敷へ行くには大きく迂回しないといけない。しかも、そこへ行くまでに、別の領主の領地を通らないといけないんだが、その領主は用心しないといけない奴なんだ」
アディはコンピュータのキーを叩くと、オルトの領地の周辺地図をモニターに出し「君たちが通るのは奴の領地の西側。奴の屋敷があるのは領地の東側だ。そして、帰りに屋敷のほうへ行くには、北側にあるこの領地を通らなければならない」
「俺たちが通る西側の道から奴の屋敷がある東側へ、直接行く道はないのか?」
「西側はほとんどが湿地帯なんだ。だから道はないんだよ」
「そうだったな」
オルトの領地の北側を陣取っている領地の領主は、コルチネスという表向きはコンピュータ製造会社を経営しているが、裏では化学兵器を製造している戦争仕掛け人である。
そのため、彼の領地には、至るとこに最新型の防犯システムが備わっている。
「この防犯システムは調べが終わってないんだ。むやみに侵入すると、生きて帰ってこれないぞ」
「では、南側から入ればいいじゃないか」
「よく見てみろよ」モニターを操作して南側の地図を出すと「そうか。オルトの領地なのか」
この大陸にいる十三人の領主のうち、最も厄介な領主は三人いる。
その内の一人がコルチネスで、オルトの領地の南側に陣取っているナスコットが二人目である。
彼の表向きの仕事は医療品の開発で、世界中に支店を持つ医薬品会社を経営しているが、裏の顔は細菌兵器の研究をしているとの噂がある。
「奴の領地には、細菌によって変化した奇妙な生物がいるらしい。許可なく入った者は、誰一人として帰ってこないと言われてるんだ」




