68-4 夜の湖会議
「なぜそんな事がわかるの?」
『スタニルの情報を差し上げるとき、いろいろとお話したことは言いましたわね。その時彼は、あなたの気持ちが知りたいとおっしゃいましたわ』
『いい機会じゃないの。ここできちんと彼のことを考えてみたら?』
「ショウのことを?」
『そう。人間だとかシルバーフェニックスだとかいうことは抜きにして、一人の男性として、今のあなたにとって、どういう位置にいるのか』
「今の私にとって?」
『彼は、あなたの支えになりたいとおっしゃいましたわ』
「私の支え?」
『彼に情報を渡す前に、このような話をしましたのよ』
『あなたが勝手にスタニルという人間を倒しに行かれたら、彼女はきっと、あなたの前から去ってしまいますわ。
今回のことは彼女にとって初めてではありません。そして、これからも同じような目に遭うでしょう。
これは常に彼女に付きまとうことですわ。
彼女だけではありませんわ。キラのメンバー全員に言えることですわ。
それでも、あなたはこの情報が欲しいですか?』
「ああ」
『この情報から、スタニルという人間は相当腕の立つ方のようですわ。万が一、そこであなたが命を落としたら、彼女は自分を責めますわ。そんな苦しみを彼女に味合わせるおつもりですの?』
「俺は、死ぬ気はない」
『言い切れますの?』
「アイツを置いて死ねないからな」
『ラルがこの事を知ったら、どうなさいますの?』
「……それは、アイツの態度しだいだな」
『どういう意味ですの?』
「俺は、アイツの気持ちが知りたいんだ」
『ラルの気持ちを?』
「俺とアイツの間には埋められない溝がある。今までその溝を埋めようと頑張ってきたが、俺からはこれ以上踏み込めない。これ以上踏み込むと、アイツが壊れてしまうんだ」
『ラルが壊れる?』
「アイツは俺に言えないことを抱えてる。その事が、俺が踏み込もうとすると邪魔をする。その言えないことがアイツを苦しめるんだ」
『……』
「俺にはアイツの気持ちがわからない。アイツは、傍にいてくれるだけで心強いと言うが、俺は、アイツのためにどう動いていいかわからない。だから、傷つけるつもりはないのに傷つけてしまう。今回のことも、俺の独りよがりなのかもしれない。そして、アイツを傷つけてしまうことになるだろう。でも、俺にはこれしかできないんだ」
『傷つけてしまうだろうとお分かりになっていて、なぜおやめにならないんですの?』
「あんな目に遭うことがアイツにとって普通のことで、今後も起こるだろうと聞けば、尚さらやめるわけにいかない。あんなことは普通じゃないだろう?」
『それは、彼女がこの任務をやめない限り、避けられないことですのよ』
「俺が一緒にいれば避けられることだ」




