68-3 夜の湖会議
『なんで?』
「……彼の、気持ちに、応えられないから」
『その事に気付いてしまいましたのね?』
『彼の勝手な気持ちに応える必要ないわ。こんな状況なのに、そんな事を考えてる暇なんかないでしょう?』
「なんで知ってるの!」
『ラル、さっきも言ったとおり、あなたが何も言わずに出ていけば、彼は必ずあとを追っていく。それは、あなたにもわかってるでしょう? だから、私たちにあとを追ってこれないようにしてほしいと頼んだ。でもね、どんな障害が起こっても、彼はあなたを捜すことを諦めないわよ』
「……」
『だから、どうしてもここから出ていきたいのなら、きちんと彼と決別してから行きなさい。それができないのならやめなさい』
「……エミア」
『彼と離れなければならない理由は、彼の気持ちに応えられないからだけですの?』
「……私が一緒にいたら、彼を、死に追いやってしまう」
『なぜそんな事がわかりますの?』
「私が捕まるたびに彼が決着を付けにいったら、命がいくつあっても足りないでしょう?」
『ラル。あなたは、彼のことを考える前に、自分のことを考えなければいけませんのよ』
「エッ?」
『あなたは、数少ないシルバーフェニックスの女性だということを、お忘れになってはいけませんのよ』
「……それは」
『今を考えなければ、先はありませんのよ』
「今を?」
『そうですわ。今を生き延びなければ未来はありませんのよ。こんな状況のときに、さらにご自分を苦しめるようなことをして、なんになりますの?』
「それは……」
『あなたが彼の気持ちに答えられないと言う理由はわかりますわ。でも、それは、生き延びて、この事態が解決してからの問題ではありませんの? 王国へ戻ってからのことですわよね?』
「……」
『その前に、あなたが亡くなってしまうようなことが起きてしまったら、その理由のために彼と決別してしまう理由になりませんでしょう?』
『ウィルシーの言うとおりよ。今現在、どうすればいいのかを考えるべきよ』
「でも……」
『彼が決着を付けに行ってしまうことは、やめてほしいときちんと言えばいいことですわ。話せばわかっていただけるはずですわ』
「ダメよ。やっぱり一緒にいられない。今の内に離れたほうがいいのよ」
『彼ほどあなたのことを理解してくれる人間とは、これから先、出会えるとは思えませんわ』
『そうね。彼は貴重な存在よ。あなたにとって』
「私にとって?」
『もう一度言いますわ。今を考えなければ未来はありませんのよ。今、あなたが思っていることを彼にお話ししたほうがいいですわ。彼はその事を聞きたがっていますもの』




