66-3 ラルの異変
「その頃、一人でいるのが寂しかったから、その人が、いつも気に掛けてくれたのが、嬉しくて……」
「それで?」
「どんどん心の中に入ってきて、私も話を聞いてほしかったから、いろんなことしゃべっちゃって……そうしたら、ある日、その人が、あの鏡を持ってきたの……」
「逃げられなかったのか?」
「いきなりあの鏡を突き付けられて、元の姿に戻った私を見て、やっぱりそうだったのかって、笑ったの」
「……」
「俺にもツキが回ってきたな。いい獲物を見つけたもんだ。極上じゃねえかって……これで、俺も、一生遊んで暮らせるって……」
「……」
「ショックだった。あの優しさがウソだったなんて……信じてたのに……」
「……」
「正体を知られてしまったから、彼をなんとかしないといけないけど、私たちは人間を殺してはいけないことになってるから、異空間の檻に閉じ込めたの」
「異空間の檻?」
「人間の世界には『神隠し』と言われる現象があるでしょう? 突然いなくなってしまう現象。それは、異空間に入り込んでしまうこと。その異空間には風船の中にいるような一定の空間があって、そこに入ってしまうと、中から出られない場所があるの」
「では、そこに入ってしまったら、絶対出られないのか?」
「いいえ。外から出入り口を開ければ出られる」
「なるほど。で、奴をその檻、空間に入れたのか?」と聞くと頷く。
「人間はお前たちを殺してるのに、お前たちは人間に手が出せないのか。なぜなんだ?」
「人間の進化を見守るのが、役目だから」
「……誰がそんなこと決めたんだよ。不公平にもほどがあるぞ」
「昔からずっとそう言われてきたから、わからない」
「……そうか」
「その時、襲われそうになって、泣きながらやめるようにお願いしたけど、聞いてくれなくて。どうしたらいいかわからなくなって、もうダメだと思って毒を飲もうとしたとき、危険な状態になったら、異空間の檻に入れろと教わったことを、思い出して、ギリギリだった」
「その事を忘れるために暗示を掛けたのか」
「任務は、続けないと、いけないから、恐怖心を、封印するために、掛けた」
「そうだったのか……辛かったな」ラルの頭を撫でる。
「なんで、暗示だと、わかったの?」
「目付きだ。暗示が始まったとき、少しの間、目付きが変わったんだ」
「……そう」
「お前が催眠術を使えると知って調べたんだ。掛け方、解き方、そして対処法」
「対処法?」
「あの暗示は中途半端に掛かってた。だから、暗示で変わったのがわかったんだ」
「……」
「中途半端だったから、なにかショックを与えれば解けると思った。だからこんな事した。これしか思い浮かばなかった。殴ればよかったんだろうが、お前に手を上げることはできない」
「……ごめんなさい」
「もういい。発端が人間のせいだった。しかも、その時恐ろしい目に遭ったんだ。対処してて当然だ」




