66-2 ラルの異変
「余計なことをするあんたが悪いのよ。善人面して同情すれば、慕われるとでも思ったの?」
ピクリとも動かないショウに向かって吐き捨てるように言うと「まったく、ここまでうまくいってたのに」ラルは腕を組み「さて、どういう催眠を掛けようかしら?」
「そんなこと、考えてる暇なんかないぞ」
「なんですって!」驚くラルの銃を取りあげると「なんで催眠術にかかってないの!」
「忘れたのかよ。俺はケガしてるんだぞ。ちょっと痛かったが、お前の催眠術に掛かって操られるよりマシだ」
「そんな……」
「形勢逆転だな。その脚じゃ逃げられないぞ」
「な……」
にじり寄るショウ。後ずさりながらポケットへ手を入れるラル。
「探し物はこれか?」上着のポケットから取り出したナイフを見せると「お前の武器はこれでおしまいだろう?」
「……!」
「なに驚いた顔してんだよ。俺たち、どのくらい一緒にいたか忘れたのか?」
ドアのほうへ行こうとするラルの前に立ち塞がる。
「私をどうするつもり?」睨みつけるラルに「どうしてもらいたい?」ニヤッと笑うショウ。
「……あんたもアイツと同じね」
「アイツ?」
「やっぱり人間は信用できない。善人面した野獣だわ!」
「なんとでも言えよ」
ショウの上着をつかんで左へ退かそうとするが、びくともしない。
「それで力を入れてるつもりか?」
今度は殴り掛かろうとするが、腕を掴まれてしまう。
「どうした? これで終わりか?」
「動きを見破られてる」ショウの手を振り払い、後ろのクローゼットまで下がる。
「全部わかるぜ。今度は蹴り飛ばそうと思ってるだろう」と言われてラルの表情が固まると「図星か。でも、その脚じゃ無理だな」近寄ってくるので「来ないで!」近くに何かないか探しだす。
「さっきまでの強気はどこいったんだよ」ラルの左腕を掴むと「離して!」掴まれた腕を振りほどこうと、ショウの腕を叩き始める。
「離してってば! 大声出すわよ!」すると暴れるラルの右腕を掴んで壁に押しつけ、動きを止めるとキスして口を塞ぐ。
ラルはビックリして抵抗するが、力の差は歴然としていた。
しばらくの間抵抗していたが、徐々に力が抜けていくと「暗示は解けたか?」
「あ……」
「なんでこんな暗示を掛けた?」ラルが俯くと腕を離し「ほかに余計な暗示を掛けてないだろうな?」
「……わからない」
「まあ普通、掛けたことを忘れるようにするからな」
「……ごめんなさい」
「なぜこんな暗示を掛けた?」
「……前に、私のことを探るために、近付いてきた人間がいたの」
「いつのことだ?」
「……この任務について、一年目、くらいだったと思う」




