65-1 葛藤
「少し話したいんだけど、いいかな?」ゆっくり席を立つラルにアディが声を掛けてくるので「……何かしら?」
アディは隣にいるショウに向かって「二人だけで話したいんだ」と言うので「お前がいいなら構わないが、どうする?」ラルに聞くと「……ええ、大丈夫よ」
「じゃあ、俺は隣のリサーチルームにいるから、話し終わったら連絡をくれ」
ラルが頷くと会議室から出ていく。
全員出ていった会議室で向かい合って座ると「話ってなにかしら?」
「ケガをする前と、ずいぶん感じが違うんだね」
「エッ?」
「自己暗示を掛けてたと、ショウから聞いたよ」
「……そう」
「なにか、掛けないといけないことがあったの?」と聞かれ、ラルは苦笑すると「いろいろとね」
「なんでそこまでするの?」
「それは……」
「それは?」
「……怖い目に、遭ったことが、あるの……。でも、そんな恐怖に、勝ちたかった。そこでやめたら、負け犬になると、思ったから」
「あまり無理すると精神を壊すことになる。そこまでしてやることに、僕は反対だな」
「仕方、なかったの。あのままの、状態だったら、命を落としてた、から。危険な、状態だったから、せめて、その場から離れるまではと、思って。結局、そのまま、来てしまったの」
「そうだったんだ」
「自分でも、きつい性格に、したと、思ってる。いろいろと、イヤな思いを、したでしょう? ごめんなさい」頭を下げると「謝らないといけないのは僕のほうだよ。ナディアの件では、本当に申し訳ないことをしたと思ってる」アディも頭を下げる。
「もう、いいのよ」
「脚のケガはどう?」
「大分、良くなってきた」
「……君の顔にアザができたと聞いたときは、どうやって謝罪したらいいか、ずっと考えてたよ。どんな顔をして会ったらいいか、わからなかった」
「あれは、私が、いけなかったの。大人げない、行動だった」
「君が悪いんじゃない。そういう行動をさせるほど、君に対する仕打ちがひどかったんだ。それを止められなかった、僕の責任だ。これからはもっと注意するよ」
「むやみに、厳しく、しないで。反発が、起きたら、大変だから」
「……ああ、心得てるつもりだよ」
「アディなら、大丈夫ね」
なにも言わずにラルを見るので「なに?」
「僕が怖い?」
「エッ?」
「怖がってるように見るよ」
「……」
「怖がられるようなことはしてないと思うけど、僕のなにが怖いの?」
「そんなこと……ない」
「君が隠してることを、どうやって聞き出そうかと探りを入れてること……じゃないよね?」
「それは、怖いわね」
「二人でいるのはイヤ? ショウを呼ぼうか?」
「……大丈夫よ」
「……僕の、なにが怖いの?」
「……アディ」
「隠してもダメだよ」
「……今は、聞かないで」
「でも……」
「あなたは、悪くないの。ちょっと、あって……」
「そう……」
「……ごめん、なさい」
「……本当の君は優しすぎるな。少しは、心の中のストレスを発散しないとダメだよ」
「……できれば、そうしたいけど、一旦表にだすと、元の自分に戻るのに、時間が掛かるの」
「僕でよければ、いつでも聞いてあげるよ」
「アディ……」
「これでもプロだからね」
「……そう、言ってくれる、だけで、いい」
「君は、今のほうがいいよ」




