61 ケガの治療
それから三日後、ラルの部屋には、療養所にいるシルバーフェニックスの主治医をしている顔見知りのドクターが来ていた。
姿を変えることができるようになったため、ショウがケガの治療を頼んでいったのである。
「順調に良くなってると思うけど、こんな大ケガをしたのなら、もっと早く呼んでほしかったわ」診察を終えると器具をバッグにしまう。
「忙しいのに、こんな所まで来ていただいて、すみません」右脚を椅子から降ろすと、スウェットのズボンを降ろす。
「気にすることないわよ。大変だったわね」
「……人付き合いが下手だから……」用意しておいた紅茶をポットから入れ、先生の前に置く。
「ありがとう」カップを持つと「あなたがなんでも持ってるから、やっかむ人が出てくるのよ」
「私はなにも持ってません」
「そうかしら? 美人で優秀で強い女。あのアディが一目置くくらいなんだもの、みんなが羨ましがるのも無理ないわよ。それに、あんな素敵なパートナーがいるんだもの。不公平を感じちゃうのよ」
「彼とは、たまたま一緒に仕事をすることになっただけです」
「そのたまたまが羨ましいのよ」
「偶然を羨ましがられても」
「運が良いということよ。美人は得ね」
「私は美人ではありません。
アディが私に興味を持つのは、私が持ってる情報を全部話してないからで、その情報もPFSにいたときに得たのもです。
その時、体を鍛えるために護身術を少し習ってたから、他の人よりちょっと技を知ってるだけだし。
ショウはPFSにいたときの同僚なだけで、独り占めしてるわけじゃないです」
「経緯がどうあれ、今のあなたは、他の女性が欲しいものをたくさん持ってるのよ」
「そんなことないです。みんなは、私が持ってないものをたくさん持ってます」
「あら、それはなにかしら?」
「自由です」
「なに言ってるのよ。あなただって自由じゃないの」
「……他の人には、わからないです」
「どうしてそんなことを言うのかわからないけど、じゃあ、他には? ほかになにを持ってないと言うの?」
「……そうだ。カイとタキがおいしそうなパウンドケーキを差し入れてくれたんですけど、召し上がりますか?」
「パウンドケーキって、もしかして、ラウンジで新しく発売されたあの?」
「そうです。ちょっと待っててください。冷蔵庫に入っているので取ってきます」
「ああ、いいわよ。私が取ってくるから」席を立つと、奥のキッチンへ行って、冷蔵庫からケーキの箱を持ってくる。
「あまり日持ちがしないらしいので、半分は持ってってください」
「いいの?」
「一人で食べたら太りそうなので」
「あなたは太らないとダメなのよ」
「一人でホール丸ごと食べるのが癖になったら、やめるのが大変じゃないですか」
「ああ、それはそうね。では、遠慮なくいただくわね」




