54-4 嵐のあとの和解
「お前が金を貯めた経緯を聞いたとき、すごく嬉しかった。
ショッピングモールのショーウインドウの前であの腕時計の話をしたときから、貯めてたんだろう?
お前が暗示で変わってから昨日まで、俺は用無しなんじゃないかと思ってたけど、その間も貯めてくれてたんだと思ったら、余計にあの腕時計が欲しいんだ」
「ナディアが見たら、なんて言うかしら?」
「普段は今までの時計をしてるさ。特別なときにだけ、付ける」
「……」
「いいだろう?」
「……考えて、おく」
「……そうか。わかった」立ち上がると「ごみを片付けてくる」紙袋を持つので「そんなこと、しなくていい」
「これくらい当然だ」
ラルの部屋から出ると、ラウンジへ向かった。
中に入ってごみを捨てた後、おばちゃんのところへ行って声を掛ける。
「ご忠告、ありがとうございました」
「あんたのために言ったんじゃないからね。勘違いしないどくれよ」
「わかってます」
「で、ラルちゃんの具合はどうなんだい?」
「脚の腫れは引いてきました。顔のアザは三・四日すれば消えると思います」と聞いておばちゃんはホッとすると「いいかい。どんな事になろうとも、ラルちゃんは女の子なんだよ。それなのに、あんな大ケガをさせた上に泣かせるなんて、信じられないよ」
「……返す言葉がありません」
「なんであの子が急に変わっちゃったのか私にはわからないけど、あんたは理由を知ってんだろう? もう少し労わってやらなきゃダメだろう」
「はい。いろいろとご迷惑をお掛けしました」頭を下げると「私じゃなくて、ラルちゃんに謝るのが筋だろう?」
「彼女には、許してくれるまで謝り続けるつもりです」
その言葉を聞いて、許してやるかという顔をすると「ラルちゃんは、人に言えない重りのようなものを持ってるんだろう?」
「エッ?」
「私だって伊達に年は取ってないよ。あんなに気が強かった子が急に涙を見せるなんて、気の強さはきっと仮面だったんだと思うよ。心の中の弱さを他人に見せないための、よそ行きの顔ってことだよ」
「……」
「その顔はわかってるって顔だね。それなら、尚さらそこんところを汲んでやらなきゃダメだろう。本当は、そんな仮面を付けること自体、やめさせたほうがいいんだけどね」
「おばさんはすごい眼力を持ってるんですね」
「ここに居ればいろんな人と会うからね」
「アイツの食事の面倒、お願いしていいですか?」
「ああ、引き受けるよ」
おばちゃんの返事を聞くと、ショウは一礼してラウンジから出た。




