53-2 返品
その日の午後一時すぎ、ショウはいつものようにラウンジでナディアたちと一緒にいた。
「お仕事お疲れ様です」ナディアがショウの前に紅茶のカップを置く。
「……ありがとう」
「ねえショウ。今週の日曜日、みんなでピクニックに行きましょうよ。湖の西側に小さなお花畑があるんですって。この前テッドが教えてくれたのよ」楽しそうに話すナディアを見て「実は、みんなに話があるんだ」
「あら、何?」
「もう、君たちと一緒に居られない」
「エエッ!」
ショウはポケットからコピーした返金手続きの書面をだすとナディアの前におき「あの腕時計はもらえない。君の父親の口座から引き落とした分は、同額を口座に振り込んでもらうようにしたよ」
「どうして! あの腕時計が欲しかったんでしょう?」
「……とにかく、君から貰うことはできない」
「なぜ私たちと一緒にいられないんですか!」取り巻きの女性たちが悲しい顔をして理由を聞いてくるので「すべて俺がいけないんだ。君たちを責めるようなことはしないよ」
「なんで急にそんなこと言うの!」ナディアがさらに理由を聞いてくるので「君たちが、今まで、ラルにしてきたことを、知ったからだよ」
すると取り巻きの女性たちは黙り込むが「私たちは何もやましい事はしてないわ。彼女が抗議されて当然のことをしてるんだもの」言い返すナディア。
「とにかく! これ以上のことはしないでくれ」言い残すと席を立った。
午後六時過ぎ。
仕事が一段落するとショウはあと片付けをして、ラウンジで夕飯を調達してくると一緒に食べ、ラルが薬を飲み終わるとノンカフェのお茶を飲む。
「脚の痛みは取れたか?」向かいに座っているラルに聞くと「……少し」
「やっぱり、ドクターに診てもらったほうがいい」
「……事を、大きくしたくない」
「じゃあ、ここに呼んでくればいいだろう」
「でも……」
「話せば黙っててくれる」
「ダメだよ。まだチップが必要な状態だから、他の人間とは会えない」
「ああ、そうだな」テーブルの端に置いてあるチップを見る。
「……彼女たちに、何か言ったの?」
「なに?」
「さっき、ラウンジのおばさんからメールが来て、教えてくれたの。お昼のとき、ナディアたちに何かを渡して話してたって」
「……あの腕時計をショップの人に引き取ってもらって、お金を返したんだ」
「エッ! なんで?」
「彼女は父親にお金を出してもらって、あの腕時計を買ってたんだ。一回受け取ったらまた同じことをする」
「その事、誰に聞いたの?」
「昨夜、ミランドから」
「ミランドから?」
「昨日、お前が寝たあと部屋からでる前に、机の上に置いてあった彼女の手鏡を見つけたんだ」
その手鏡はラルの部屋に戻っている。




