53-1 返品
次の日、ショウはラルに朝食を食べさせて薬を飲ませた後、一階にあるショップへ行って、店主にナディアが腕時計を買ったときの経緯を聞いた。
「あの腕時計は誰かの誕生日プレゼントとして贈りたいから、取り寄せてくれと頼まれたんだよ。
持ってきたカタログを見せられたときは驚いたね。
誕生日プレゼントとはいえ、あんなに高いものを贈るとは思わなかったからね。
お金はあるのかと聞いたら、それは心配ないと言われてね。
まあ、彼女の父親は元大地主だったから、あの子が強請ればいくらでも出してくれるだろうと思ったよ」
「支払はカードですよね?」
「ああ。一括払いだったよ」
「……そうですか」
「もしかして、そのプレゼントを渡す相手というのは、あんたじゃないのか?」
「折り入ってご相談があるんですが、もしその腕時計を引き取ってくれと言ったら、できますか?」
「何だって!」
「受け取っておきながらそんな事するなんてと思われるかもしれませんが、こんな高価な物を貰うわけにいきません。ましてや父親にねだって出してもらったなんて聞いたら、尚更です」
「……余計なことを言っちまったかな?」
「いえ、俺がここに来たのは返すためです。使ってしまったので元値とは言いません。そちらのいい値で構いませんから」
「払い戻した金はどうするんだ?」
「不足分を補って全額彼女に返します」
「それじゃ彼女がかわいそうだよ。そのまま受け取っとけばいいじゃないか」
「それはできません。今後、このようなことを続けられたら困ります。それをわかってもらうためです」
「まあね。それはわかるよ」
「お願いします」頭を下げるショウを見て「わかったよ。俺も安請け合いしちゃったからな。貸してみな」
「ありがとうございます」
箱に入った腕時計を渡すと、店主は奥へ引っ込んでルーペで調べ、どこかへ電話をするとレジを操作し、戻ってきた。
「返金手続きの書面だから、内容を読んで、最後にサインしてくれ」と言ってペンとタブレットをよこし「金は、彼女の父親の口座へ振り込むように手続したよ」
「口座に返金?」
「実は、彼女の父親のカードを預かってるんだよ。お得意様でね。御用利きなんだよ」
「そうなんですか」
「それに、あの腕時計が欲しいという人が他にいてね。さっき電話したら中古でもいいから買うと返事をもらったから、返品に応じられたんだ。品薄な限定品だからね」
「では、その人に感謝しないといけないですね」
「ついてたな」




