52-1 森を操るもの
『この森は彼女たちが操ってるのよ』
「操ってる? この森を?」
『そうですわ』ウィルシーが答えるので「では、なぜアディたちをここに居つかせるんだ?」
『わたくしたちの代わりに動いてもらうためですわ』
「代わり?」
『今までの経緯を話す前に、あなたに聞きたいことがあるの』いつもよりきつい口調のミランド。『あなたはラルのことをどう思ってるの?』
「どうって?」
『本当に、ラルたちの力になるお気持ちがあるのかどうかを、お聞きしてますのよ』
「もちろん」
『信じられない』首を横に振るエミア。
『ではお聞きしますわ。なぜラルと距離を取りましたの?』
「アイツは自己暗示を掛けた後、以前に作った性格になった。
気が強くて高飛車な勝気の性格に。
最初俺は、アイツの取る態度に腹を立てたが、それは仕方のないこと。
精神状態が極限にきてたアイツをそのままの状態にしておくことは、精神破壊を起こすことになる。
そうなったら、アイツは元に戻れない。狂ったまま一生を過ごすことになる」
『それでは、彼女に暗示を掛けるように言ったのはあなたですの?』
「いや、アイツが決めたことだ。今の性格では任務をこなせないと言って。そんなことしなくていいと俺は反対したんだが、精神状態のことがあるので、条件付きで承知した」
『……そうでしたの』
「性格を変えたアイツは、他人に必要以上に構われることを嫌った。だから俺は、一定の距離を置くことにした。アイツが動きやすいように、何かあったときはすぐ声を掛けられるように、付かず離れず、いつもアイツの視野の隅にいるように心掛けた」
『それが、あなたに普通の生活を思い出させることになった』エミアが続けると「なぜ知ってるんだ?」
『ラルの言ったとおりでしたわね』
「アイツが何か言ったのか?」
『前に彼女のあとを追ってここへ来たことがありましたでしょう? 長雨のあとですわ』
「……ああ」
『彼女と言い合いになってあなたが怒って帰ったあと、わたくし彼女にお聞きしましたの。このままでいいのかと。彼女、こう答えましたのよ』
「彼は普通の生活を思い出しかけている。仕事をして友人とお酒を飲み、女性と話す普通の生活を。一度経験したことがあれば余計思い出す。楽しいことはそう簡単に捨てられない。もし彼が戻りたいのなら、私は止めることができない」
そう言った後、ウィルシーは少し間をおき、ショウを見ると「彼は、人間なんだから、と」
「……」




