25 作戦実行
「どこまで飛んでったのかしら?」温室のほうへ行くと「アッ、あったわ」
ハンカチは、温室の周りに植えてある木の側に落ちていた。
「あら、これは温室ね」
「ああ、近寄っちゃダメだよ」
「どうして?」
「いいから。さあ、戻ろう」
「ちょっと待って。今、温室の横を誰かが通ったわ」
「何だって!」
「向こうのほうへ影が横切ったわ」
「見てくる。君は先に部屋へ戻ってて」
そう言うと、アレンは指さしたほうへ走っていく。
(今だわ!)
彼が走っていったほうと反対へ走る。
(確か、ここら辺にドアが見えたんだけど)
その時、風が吹いてきて、何かがカタカタと音を立てた。
(あった!)
椰子の葉の陰にドアがあり、電子ロック式になっている。
「こんな鍵、簡単に開けられるわよ」
ドレスの裾をまくり、脚に括り付けておいた道具を外して鍵を開け、中に入ってすぐに出てくると、ドアを閉める。
その時、弱まっていた風が強くなったので慌てて来た道を戻り、階段を上がると息を整え、グラスを持つとベランダから見下ろした。
少しするとアレンが戻ってくる。
見上げる彼に手を振り「どうだった?」声を掛けると「見失ったよ」ゆっくりと階段を上がってくる。
肩で息をしているので「大丈夫?」声を掛けると「脚には自信があるんだけど、きっと地元の悪ガキたちだろう。敷地内に入ろうとして、いつも警報装置を鳴らすんだ。もっと警備を厳重にしないといけないな。警察に言って注意させないと。さあ、中へ入ろうか。風が強くなってきた」
その後、ソファに座って雑談をしていたが「どうしたの? 気分でも悪い?」
口数が少なくなってきたので、心配そうに声を掛けてくる。
「なんだか、頭がボオッとしてきて」
「それはいけないな。少し横になったほうがいい」
アレンに連れられて奥の部屋へいく。
「私……どうしたのかしら?」
「飲み過ぎちゃったんだよ」
ベッドまで来ると「さあ、横になって」腰掛けると「私のバッグ、どこかしら?」
「あとで持ってきてあげるよ」
「私、寝る前に、薬を飲まないと、いけないの」
「どこか悪いの?」
「お酒を、飲んだ夜に、飲むの」
「わかった。今持ってくるよ」
水とバッグを持って戻ってくると「水、ここに置くよ」サイドテーブルに置くので「ありがとう」バッグからピルケースを出すと、錠剤を二錠飲む。
「さあ、横になって」
バッグをサイドテーブルに置き、両肩を掴んで寝かせようとするので「アッ、ハンカチがあんな所に」ドアの前を指すと「俺が取ってくるよ」立ち上がって背を向けたときバッグからスプレー缶を取りだし、歩きだす彼の後ろから手を回して顔に吹き掛けると「ウッ」小さな声を出してその場に倒れる。
「まったく、お酒に睡眠薬を入れるのはルール違反よ」
錠剤は解毒薬だった。
スプレー缶をバッグにしまうと、倒れているアレンをベッドに寝かせ「明日のお昼まで、ゆっくり寝ててね」と声を掛けて部屋から出る。




