50-3 衝撃
しばらくしておばちゃんがラルの食事を持ってくると「脚の腫れがひどくなったのかい? 前よりも痛そうに歩くじゃないか」と聞くが、ラルは俯いたまま答えない。
そんな彼女の顔を覗きこむと「その顔はどうしたんだい! アザができてるじゃないか!」
すると慌てて顔を背けるので「とにかく食べなさい。お腹が空いてるだろう?」手を出さない彼女に「ラルちゃんは悪くないよ」声を掛けると、彼女の頬を涙が伝う。
「ラルちゃん!」
声を出さず、ただ涙を流すラルに「ほら、食べないとダメだよ。一昨日の夜からなにも食べてないんだろう?」ハンカチで涙と拭くと「おや、それはなんだい?」上着の右ポケットから細長い箱が出ているのに気づく。
するとポケットの奥へ押しやるので、それ以上その箱について聞かず「とにかく食べなさい」またラルの涙を拭く。
次の日の夜遅く、ラウンジが閉店する三十分前にラルが来て、夕飯をいつもの吹き抜け側の席で食べ、薬を飲もうとポケットから出していると、向かいの席に誰かが座った。
おばちゃんかと思って顔を上げると、向かいにいたのはショウだった。
ラルは慌てて出した薬をポケットにしまい、トレーを片付けずにラウンジの出口へ向かうと「ラル! 待て!」ショウがあとを追う。
その光景をカウンターの奥から見ていたおばちゃんは、何も言わずに二人を目で追っていた。
ラウンジから出たところでラルの腕をつかみ「その脚はどうしたんだ!」
「ショウには関係ない!」手を払うと「その顔……どうしたんだ! アザができてるじゃないか!」
「なんでもない!」顔を背け、右脚を引きずりながら歩いていくと「待て!」あとを追ってくるので「来ないで! 私より彼女の心配をすればいいでしょう!」
「ラル!」
「来ないで! 彼女たちに見つかったらどうするの!」
「なぜそんなにナディアたちに拘る! ナディアのなにが気に食わないんだ!」
そう言われてラルは立ち止まり、振り返ってショウを見ると「なにがですって?」と聞き返す。
「そうだ。なにが気に食わない? なぜそんなに敵視して見る?」
「知らないの?」
「なにを?」
ラルは呆れてため息を吐くと、再び歩きだす。
「待て! 答えてないだろう!」ラルの前に立つと「こんな所にいないで、彼女のお守りをすればいいでしょう!」
「ナディアは部屋に戻った」
「それなら、明日の仕事の準備でもすればいいじゃない!」
「またバンダナをしてるな」
「どいて!」ショウをどかして歩きだすと「待て!」再びラルの前に立ち「二・三日前まではしてなかったのに、なぜしてる!」
「ショウには関係ない! 私なんか構わないで、彼女を構えばいいでしょう!」
「……お前、今日は変だぞ」
「変で結構よ! どいて!」
再びショウをどかそうとするが、今回、彼は動かなかった。




