50-2 衝撃
ディナータイムの終了近くになるとラウンジが空いてくるので、ラルはなにか食べようとIDカードを持って部屋から出た。
アクシデントのせいでお昼が食べられなかったため、部屋に置いてあるスナックで空腹をしのいだのだが、今回、薬を飲まないといけないので、この時間なら大丈夫だろうと出向いたが、中へ入ると、奥のテーブルに頬に大きな湿布薬を貼ったナディアと取り巻きの女性が、ショウと一緒に座っていた。
「あの子が、他の人に見られたくないと駄々をこねるから、人の少ない時間に来たらしいんだよ。まったく、あんなに大袈裟に痛がっちゃって。あの男の気を引こうとしてるんだよ」
カウンターのおばちゃんがラルに気付くと、どうして今の時間にナディアたちがいるのか、説明してくれた。
そして、ショウもラルがいることに気付き、カウンターの椅子に座って夕飯ができるのを待っているラルのところへ来ると「ラル、ナディアに謝ってこい」
「断る」そっぽを向いたまま答えると「なぜあんなことした? アディが言ったことと逆じゃないか」さらに近づいて抗議するので「そうかしら?」そっけなく言い返す。
「あれくらいのことを言われただけでなぜ怒る。お前らしくないぞ」
「あんなこと言われたら誰でも怒るわよ」
「相手にするほうがおかしいだろう。ナディアたちと本気でやり合うなんて、大人げないぞ」
「呆れたわね。こんなときでも彼女の味方をするの?」
「力ではお前に敵わないことくらい、知ってるだろう?」
「もちろん」
「わかってながらなぜあんなことした? お前のやってることは弱い者イジメだぞ」
「……弱い者……イジメ……私が?」ショウを見ると「そうだ。気に入らないことを言われたからって、暴力で対抗するのは、非力な者に対して力でねじ伏せることと同じじゃないか」
「ちょっと!」
「おばさんは黙っててください!」強い口調で止めると「手を上げたお前が悪いのに、謝ることすらできないのか?」
「ショウ。痛み止めを飲まないといけないの。お水を持ってきて」湿布薬を貼っている頬を押さえながら、近くまで来るナディアが小声で声を掛けてくるので「ああ、今持ってくよ」
カウンターの端に置いてあるコップを取り、横にある冷水器から水を入れると、ナディアと一緒にテーブルへ戻っていく。
「ダメだよ。口を開けたら頬が痛くなるだろう? 水に溶かして飲んだほうがいい。かしてごらん」
その時、ラルが席を立った。
「ラルちゃん、夕飯は?」
おばちゃんが声を掛けるが、ラルは答えないでラウンジから出た。
それから二日後、モーニングタイムが一段落する午前十時半過ぎに、ラルがラウンジに顔をだした。
「ラルちゃん! 昨日はどうしたんだい? 一回も顔を出さないから心配したんだよ」
「……ちょっと」俯いて答える。
「今作るから席に座ってな」
小さく頷くといつもの席に向かった。




