50-1 衝撃
次の日のランチタイムが終わる午後二時半ごろ、人影がほとんどなくなったラウンジにラルが入っていくと、ショウたちと鉢合わせになった。
「ラル、いいところに来た。今夜、ナディアたちが俺の誕生祝いをしてくれるんだ。来るだろう?」
「あら、ラルさんはお仕事で忙しいんじゃないかしら? 無理にお誘いしたら迷惑になるわ」
いつものように、ショウの隣を陣取っているナディアが口を挟んでくるが「今夜くらいいいじゃないか」ショウがさらに誘うので「いらっしゃるんでしたら、彼へのお誕生日プレゼントを持ってこられないといけないわ。私はもう差し上げたのよ」ね、と首を傾けてショウを見る。
「欲しかった限定品の腕時計、わざわざ取り寄せてくれたんだよ」左手首に付けている腕時計を嬉しそうに見せる。
「喜んでくれて嬉しいわ。ラルさんは、彼が欲しがってた腕時計のことをご存じでした?」
「エッ……いえ……」
「前に話したことがあったろう?」
「ああ、そうね。忘れてたわ」
「まあ、それで仕事のパートナーなんですか? それじゃ彼がかわいそうだわ」
「ナディア、言い過ぎだよ」
「でも、本当のことだわ。もし私がショウのパートナーだったら、絶対に忘れないもの」
「ラルさんは彼を尻に敷いてたって聞きましたけど」取り巻きの女性の一人が意地悪く言うので「そんなことないよ」否定するショウ。
「でも、前にアディさんが、他の人に話してるのを聞きました」
「女性は気が強いと嫌われてしまうのよね。特に男の人を尻に敷くようなタイプの人は」ナディアが取り巻きの女性に向かって言うが、視線はラルへ向けられている。
「だから、オシャレしてその点をカバーするとか、細やかな気配りをするとかしないと、煙たがられてしまうのよね。何もしないと男の人は離れていってしまうもの。気を遣わない人は気を付けたほうがいいわよね」
バシッ! ラルがナディアの頬を叩く。
「ラル! なんて事するんだ! ナディア、大丈夫か?」
「ひどい……」
「ナディアはラルさんに言ったんじゃなくて私たちに言ったんですよ! なにの、どうして彼女をぶつんですか!」
「ラル! 謝れ!」
「ラルさん! ひどすぎます! ナディアに謝ってください!」取り巻きの女性たちもラルに抗議する。
「とにかく冷やしたほうがいい。腫れたら大変だ」
ナディアを連れてラウンジの奥へいき、椅子に座らせると、ハンカチを濡らしてきて彼女の頬にあてる。
一方、取り巻きの女性たちは、ラウンジの入り口でラルに抗議をしていた。
「本当のことを言われたからって、怒るのは筋近いじゃないですか?」
「ナディアの言ってることが違うというんですか?」
「ナディアに謝ってください!」
なおも抗議する女性たちの間を抜けて、ラルはラウンジから出ていく。




