49 違和感
その日の夜、ラルが夕飯を食べにラウンジに顔をだすと「おや、ラルちゃん。お昼と少し感じが違うような気がするんだけど、なにかあったのかい?」おばちゃんが、顔を見るなり指摘してくる。「急に顔色が悪くなったし、痩せたように見えるよ」
「いえ、別に……」
「そうかい……」首を傾かしけながら、ラル用に用意していた食材に火を通しはじめる。
ラルはトレーを持ってカウンターにあるスチール椅子に座ると(ヤバいな。おばさんは毎日ミランドと顔を合わせてたから、微妙な変化に気付かれてしまう)暗い表情にならないように口角あげようと、両手で頬穂引き上げる。
少ししていい匂いが漂ってくると「はい。できたよ」カウンターにお皿を置いていくので受け取ると「ラルちゃん! その手首のアザはどうしたんだい!」
「アッ、何でもないの!」慌てて隠すと「何でもないはずないだろう! お昼のときにはそんなものなかったじゃないか!」
「本当に大したことないの」そそくさとお皿をトレーに乗せると、いつもの席へ行く。
少し経つとおばちゃんが来て「はいよ」食後のお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう」
おばちゃんは向かいに座り「何があったんだい?」と聞いてくる。
「……ちょっとね」
「ちょっとなはずがないだろう? 右脚を引きずって歩くじゃないか。何かあったのかい?」
「実は、森へ散歩に行ったとき、張り出した木の根っこにつまずいて、足首をねん挫しちゃったの」
「なんだって! 危ないねえ。気を付けないとダメじゃないか」
「本当に、森の中は危険ね」ラルは笑い返すと食事を続ける。
しばらくの間ラルを見ていたおばちゃんが「お昼のときまでのラルちゃんと今のラルちゃんは、姿は一緒だけど別人みたいだよ」
「エッ!」驚いて顔を上げると「なんて言ったらいいのか、そう、感じが違うんだよ」
「……ちょっと、イヤなことがあったの」
「ああ。今日、あの男がナディアから貰った誕生日プレゼントを喜んでたからだろう?」
「……誕生日プレゼント?」
「おや、違うのかい?」
「エッ、まあ」
「……あんな男のことなんか気にすることないよ。いいね、ラルちゃん。仕事のパートナーが欲しいなら他を捜すんだよ。なんならアディさんに相談すればいい。きっとラルちゃんに合ったパートナーを紹介してくれるよ」そう言うとおばちゃんは席を立った。
カウンターに戻るおばちゃんの後ろ姿を見て「誕生日くらい、聞きだすよね……」
ラルはゆっくり夕飯を食べると、閉店の音楽がなる中、トレーを返して部屋に戻った。




