23 任務開始
「ンー、気持ちいい!」ビーチに置いてあるロッキングチェアに座って海を眺める。「さてと、美味しそうな果物でもいただきますか」
紙に書いてあるとおり皮を剥くが、そこから先がわからない。
「どういう意味かしら?」
紙には、回して飲む、としか書いていない。
「どういうこと?」
「これは、ミキサーに掛けて、ジュースにして飲むという意味だよ」
声のするほうを見ると、小麦色に焼けた肌に、金の腕時計をした若い男が立っていた。
「あなたは?」
「初めまして。俺はアレン。この先の別荘に住んでるんだ」
「まあ、別荘に?」
「隣、座ってもいいかな?」
「ええ、どうぞ」
「ここへは観光で来たの?」
「そうよ」
「名前、聞いてもいいかな?」
「マルガレットよ」
「マルガレット。君にピッタリのきれいな名前だね」
「ありがとう」
「どこから来たの?」
「メルクールよ」
「ヘェ。俺もメルクールに住んでたんだ」
「まあ、そうなの」
「偶然だな。ここにはどの位いるの?」
「二日よ」
「来たばかり?」
「昨日着いたの」
「恋人も一緒?」
「いたら、一人でこんな所にいないわ」
「それもそうだ」
「今度はあなたのことを聞かせて。質問に答えたんだから」
「ああ、そうだね。金融業をやってるんだ。スタンレーって聞いたことない?」
「あの有名なスタンレー氏のこと?」
「そう。親父が昨年亡くなっちゃって、今は俺が会社を引き継いでるんだ」
「エエッ! 本当?」
「結構テレビにも出てるんだけど、見たことないかな?」
「見たことあるけど、こんな所で、しかも、真っ黒に日焼けしてたらわからないわ」
「そっか、そうだよね。じゃあ今夜、俺の別荘に来ないか? 本物だって証拠を見せるよ」
「いいの?」
「あとで迎えに行くよ。どこに泊まってるの?」
「ブルースカイホテルよ」
「ヘェ、あそこに泊まってるんだ。この島で一番高級なホテルだよ」
「とても素敵なホテルだわ」
「だろう。俺が経営してるんだ」
「あなたが?」
「誉めてもらって嬉しいよ」
「帰ったら、フロントに飾ってあるあなたの写真をジックリ見てみるわ」
「ぜひそうしてほしいね。じゃあ、七時に迎えに行くよ」
『もしもし、私です。思ったより早く彼と接触できたわ……ええ、今夜、彼の別荘に招待されたの……ええ、戻ったら報告を入れるわ……じゃあ』




