22 次の任務地へ
次の日の午前九時半、キラの部屋を訪ねた。
しかし、ドアを何回ノックしても返事がない。
「キラ、起きてるか?」もう一度ノックするが、返事は返ってこない。
「気分が悪くて起きられないのか?」
自分の部屋へ戻るとフロントへ電話して『一〇二一号室を借りてる者の友人ですが、夕べ飲み過ぎたらしくて起きてこないんです。すみませんが、鍵を開けてもらえませんか?』
“あの、ノールマン様でしたら、急用ができたとおっしゃって、朝八時にチェックアウトされましたが”
『チェックアウトした?』
“はい”
『何か、何か言付けはありませんか?』
“いえ、何もお預かりしておりません”
『そうですか……俺もチェックアウトします!』
電話を切ると荷物を持ってフロントへ行き、チェックアウトを済ませると船着場へ急ぐ。
チケット売り場でサウスアーネット行きの時間を見る。
今、午前十時前。次の便は十時二十分。
船は一時間おきに出ていることがわかった。
「すると、キラは八時二十分の船に乗ったのか」
窓口で彼女が乗り込んだか聞いてみると「ああ、そういえばそんな女性がいたな」対応した若い男性が記憶を辿りながら答える。
「どこまでのチケットを買ったかわかりますか?」
「確か、サウスアーネット行きだったよ」
「それは確かですか?」
「ああ。八時台の乗客は少ないんだ。特にサウスアーネット行きはね。それに女性一人だったから、余計に覚えてるよ」
「そうですか。ありがとうございました」お礼を言うと隣の待合室へ向かった。
(昨日言ったことは本当だったのか。でも、あそこまで話しておきながら、どうして一人で行ったんだ?)
その時『午前十時二十分発、サウスアーネット行きをご利用のお客様。まもなく出向致しますので、お早目にご乗船ください』アナウンスが聞こえてきたので「追い付くぞ」荷物を持ってゲートへ急ぐ。
「いらっしゃいませ!」
店の主人が威勢のいい声で声を掛けてくる。
「きれいな色の果物がたくさんあるのね」
「おや、お客さん、ここは初めてかい?」
「ええ」
「いい所だろう。ちっぽけな島だから、都会のように殺伐としてないし、人も少ないからゴミゴミしてないし。何と言っても、空気が違うだろう?」
「ええ。ご自慢されるだけのことはあるわ」
「どこから来たんだい?」
「殺伐とした都会から」
「アハハハハッ! そうか。休暇で来たのかい?」
「仕事で近くまで来たの。時間が余ったから、少しだけ骨休み」
「そんな事して、会社にバレないかい?」
「大丈夫。ヘマしないわ」
「ほう」
「そういえば、ここって税金がないんでしょう?」
「以前はね」
「あら、今は違うの?」
「数年前までは、ある人が慈善で代わりに払ってくれてたんだよ」
「金融業のスタンレー氏でしょう?」
「知ってるのかい?」
「もちろん。この話は有名ですもの。でも、一昨年くらいに亡くなって、息子が跡を継いだって聞いたけど」
「そう、道楽息子がね」
「噂は聞いてるわ。相当な遊び人なんですってね」
「仕事そっちのけで、この先の別荘に住んでるよ」
「ここにずっといるの?」
「ああ。跡を継いでからずっとね」
「遊び好きの人に、ここは似合わないわ」
「俺もそう思うね。でも、時々仲間がきてドンチャン騒ぎしてるよ」
「いい迷惑ね」
「あのドラ息子の代になってから、他人の税金を払う必要なんかないって言い出して、打ち切られてしまったんだよ」
「そうだったの」
「仕方ないよ。今までが平和過ぎたんだ」
「……ねえ、お昼に何か食べたいんだけど、選んでもらえるかしら?」
「いいよ」
「彼の住んでる別荘って、きっと広いんでしょうね」
「ああ。広大な土地に豪華な別荘を建ててるからね」
「そんな広い所で、一人で住んでるの?」
「どうも、そうじゃないらしいんだよ」急に声を潜めるので「何か、おかしなところでもあるの?」
「知り合いが雑貨屋をしててね。週に一度、別荘へ品物を届けに行ってるんだけど、一人にしては量が多いらしいんだよ」
「メイドさんの分じゃないの?」
「それ以上に多いと言ってるんだよ」
「じゃあ、彼らの他に誰かいるのね?」
「そうらしいよ。けど、誰がいるのかわからないらしいんだよ。おっと、この事は口止めされてるんだ。他の人にしゃべらないでくれよ」
「ええ。約束するわ」
「はい。食べ方も書いといたからね」紙袋を差し出すので「ありがとう。おいくらかしら?」
「美人さんにはオマケしちゃうよ。千円でいい」
「それは安過ぎるわ」
「いいっていいって」
「やさしいのね」




