38-1 ゆがむ関係
数日後の朝、ラルがいつもの時間にラウンジへ行くとおばちゃんに朝食を作ってもらい、いつもの吹き抜け側の席に行って食べはじめたとき、誰かが向かいに座った。
「ショウ!」
「そんなに驚くことないだろう」
「驚くわよ。座る前に声を掛けて」
「……本当に顔色が悪いな」
「突然なによ。それより仕事はいいの?」
いきなり右腕を掴むので、バシッ! 手を払うと「どこでその傷を負った?」
痛みを堪えるので精一杯のラルが答えずに黙っていると「医務室へ行くぞ」立ち上がるショウに「信じ、られない。何も、ぶつけた、ところを、掴む、こと、ないじゃ、ないの」
「ぶつけた?」
「……ショウには、関係ない」腕を擦ってフォークを取りなおし「こんなところでサボってていいの?」平静を装って食べはじめるが、フォークを持つ手が小刻みに震える。
ショウは席に座ると「どこでぶつけた?」
「しつこいな」
「ラル!」
「怒鳴らなくても聞こえるわよ。正面に座ってるんだから」
「……何があった?」
「何もないわよ」
「何もなくてケガするのか?」
「……もう、話すわよ。話せばいいんでしょう? 外の調査に行ったとき、崖の上のほうに変わった地形を見付けたのよ。調べようと崖を登ったとき、金具が抜けて落ちちゃったの。その時にぶつけたのよ」
「ウソを吐くな」
「なんですって?」
「ただぶつけただけで、どうしてプロテクターなんかしてるんだ。腫れてるんだったら、プロテクターなんか付けられないぞ」
「私の勝手でしょう? さっさと仕事に戻りなさいよ」
「ラル!」
「食事のときくらいゆっくりさせて!」
「……わかった」
一向に席を立たないので「なんで仕事に行かないの? やることがあるんでしょう?」
「今日はやらない」
「……そう」
背中を丸めて食べているのを見て「背中もぶつけたのか?」
「そうよ」
「なぜバンダナをしてる?」
「触ってみたら」
「……冷たい」
「当然よ。アイスマットが付いてるんだもの」
「アイスマット?」
「ここに大きなタンコブを作ったのよ」額の左側を指すと「大丈夫なのか?」
「まあね」
「顔色が悪いのは、寝不足からか?」
「でしょうね。このところ、寝るのが明け方近かったから。そういえば、目の下にクマができてたんだ。パックして取らないと」
「腕のほうは大丈夫なのか?」
「誰かさんが思いっきり掴まなければ、だいぶ痛みが治まってたんだけど」
「……悪かった」
「どういたしまして」
「調査のほうは、当分お預けだな」
「この状態じゃあね」
「食事が終わったら、湖まで散歩にでも行くか? 気晴らしになるぞ」
「珍しい。どうしたの?」
「たまにはいいだろう?」
「せっかくのお申し出だけど、この顔を他の人の目に触れさせたくないの」
「そこまで気にならない」
「さっき、本当に顔色悪いなって言ったじゃないの。ショウにわかるんだったら、他の人だって気が付く」
「じゃあ……」と言いかけたとき「ラルちゃん! あの子たちが来るよ!」スタンドのおばちゃんが声を掛けてくる。「今、女の子が一人、走り出てったよ!」
「それはマズい」
「気にすることない」
ショウの言葉を無視して急いで食べると席を立ち、トレーを返却口へ持っていく。
「一緒にお茶を飲めばいいだろう! 何がイヤなんだよ!」付いてくるショウに「こないで!」けん制すると「ラルちゃん、薬を飲むのを忘れないようにね」カウンター越しにおばちゃんが言うので「わかった!」答えると急いでラウンジから出ていく。




