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シルバーフェニックス戦記 ~護るべきものは~  作者: 夏八木 瀬莉乃
第六章 大陸にある保護団体
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37-2 広がる距離

 

 部屋に戻ると「不思議ね。こんな部屋でもすごく懐かしい」


 荷物をベッド脇に置くと額からチップを外し、すぐに着けられるようにテーブルに置くとお茶を入れ、ノートPCを立ち上げて、ミランドが追記してくれていた調査リストの内容に目をとおしはじめる。


「ケッドマンの隣の領主について、情報が集まりにくいのはなんでだろう? ショウのリサーチでも、表面上のことしかわからないみたいだけど」


 リストのペドニロスの項目を見ると、不動産業を牛耳る大物で、主要都市に建つ高層ビルをいくつも所有し、最近では未開発の土地の開拓に着手していると書かれている。


 本名はアルンフリート ペドニロス。

 家族は両親と妻、子供が二人。

 趣味は戦車や飛行機のプラモデルの製作で、専用の部屋がいくつかあるらしい。

 ペットはポメラニアン二匹。

 郊外に屋敷があるが週末以外は自宅に戻ることはなく、世界各地を飛び回っている。


「情報がこれだけなんて、ここにいる調査員は何をしてるのかしら? あら、ショウが連絡を取り合ってるんだ。それでこれだけ? ということは、生半可なことでは情報が取れないということね。ここはエミアとウィルシーに協力してもらおう」 

 

 リストを閉じると、グループに今回の詳しい報告書を作成して送った。



 次の日、ラルは遅くまで寝ていた。

 今まで外で野宿していたので、布団の感触が心地よかった。


 それでも午前九時過ぎに起きると、薬を飲まないといけないので、食事をしにラウンジへ向かう。


「どうしたんだい? 今日はずいぶんと遅いじゃないか」スタンドのおばちゃんが、ラルの顔を見つけると声を掛けてきた。


「ちょっと頑張ったら疲れちゃったの。今日から別のことをやるから、遅く起きたのよ」

「そうかい。それにしても、あれだけ食べたのにちっとも太らないね」

「あ……痩せの大食いなの」


「じゃあ、今日も多めに用意しようか?」

「いえ、食べ過ぎて胃の調子がおかしくなっちゃったの。無理はダメね」


「胃を悪くしたのかい? それはいけないね。医者に診てもらいな」

「薬があるから、それを飲んでるわ」

「でも、一度診てもらいな。ひどくなってからじゃ治りが遅くなるよ」

「そうね」


 スパゲティと温野菜のサラダを作ってもらうと、吹き抜け側のボックス席に座った。


「スパゲティはちょっときつかったかな」フォークを回すとき、胸の打ち身に痛みが走る。

 左手に持ち替えても同じだった。

「今日は我慢しよう」


 時間を掛けてお皿を空にすると用意してきた薬を飲み、食器を片付けると、おばちゃんにお昼用のサンドイッチを作ってもらい、部屋に戻る。


 大丈夫だと言って無理矢理ミランドと代わったが、本当は歩くのが精一杯で走れる状態になく、部屋の外へ出るときは極力人が少ない時間を選んだので、ショウと顔を合わすことはなかった。


「隣は何をする人ぞ。顔を合わさぬ隣人は、生きているのか死んでいるのか。おそまつ」


 しかし、ラルにとって今の状況は、ショウにケガのことを感づかれる危険性がないので、ホッとしている。


「もう、ショウのことを考えるのはやめよう。彼にとって、今の状態のほうが普通なんだから」


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