31-1 広がっていく亀裂
その後もショウとは療養所内で顔を合わせているが、ほとんどの時間を彼らのケアに費やしているので、仕事以外の話をする余裕がなかった。
しかも、医局内から出ると、中型台風と化したナディアたちが、台風の目を捕まえて去っていく。
そんなことを繰り返す日々のなか、雨が降り出してから二週間が過ぎると、気持ちいい青空が広がった。
「ああ、やっと外へ出られるわ」
しかし、崖の外へでたラルを待っていたのは、ぬかるんだ泥道だった。
ズッポン、ズッポン。
「……靴が泥だらけ」
きれいな足形を残しながら、ラルは湖へ向かって進んでいく。
「つ、疲れる……」ゼーゼーと肩で息をする彼女に『これも自然の恵みですわ』湖の水量が増したため、懸念していたことが払しょくされたウィルシーが湖から顔をだす。
「文句は、言わない。ただ、私の足を、埋めるような、ことを、してほしくない、だけ」
『フフッ、それを文句と言わないで、なんと言うんですの?』
「お願い」
『まあ』クスクス笑うと『靴をお洗いになりますか? それとも、戻ってからになさいますか?』
「戻ってからにするわ。戻るときにまた汚れるだろうから、面倒なことは一回で終わらせたい」
そこへ強い風が吹いてきて、風に交じってエミアの声が聞こえてくる。
『誰かがそっちへ向かってるわよ』
すると、ウィルシーが慌てて水の中へ引っこむ。
そこへ姿を現したのは「ショウ!」
「お前、よくここまで来れたな」
彼は、地面に付いたラルの足跡を追ってきたらしい。
「靴の形が変わったけどね」側面にコッテリと泥が付いている。
「今のうちに泥を落としたほうがいいぞ。乾いたら取るのが大変だからな」近くに落ちている小枝を拾ってくると、一本をラルに渡す。
ラルたちが立っているところは小さい草で覆われているので、ここにいる限り、靴に泥がつくことはない。
「散歩なんか明日にすりゃいいのに。わざわざ雨上がりに外へ出なくともいいだろう?」
「やっと晴れたのよ。外に出たくなるでしょう? それより、なんであとを付けてきたの?」
「このところ仕事の話しかしてないから、他の話をしようと追い駆けてきたんだよ」
「そうなの。で、何かしら?」
「……ナディアたち、お前に迷惑かけてないか?」
「……そう、ね……あれから、何も言ってきてないけど」
「……そうか」
「早く戻ったほうがいいんじゃない? きっと彼女たちが探してるわよ」
「何だよ、その言い方は」
「本当のことを言っただけよ。もし彼女たちの中の誰かに一緒にいるところを見られたら、あとでなんて言われるか」
「なんで彼女たちに遠慮しないといけないんだよ」
「彼女たちが真剣だからよ。恋は盲目。思考は偏る。邪魔者はなんとしても排除しようとする女性は、集団になるとすごい力を発揮するのよ」




