29-2 すれ違っていく関係
最初は、仲間を助けだしたら直接王国へ送ればいいと考えていた。
しかし、この大陸の空間が歪みはじめている影響で、この地から王国への入り口が開きにくくなってしまったとグループから報告が来ていた。
そうなると、向かいの大陸に渡ってから王国へ連れていく方法しかない。
ここで問題が出てきた。助けだした仲間をすぐに移動させられないということだ。
彼らは全員健康体ではない。しかも、その半分くらいが何かしらの病気に掛かっている。
そんな状態での長距離移動は、死を意味する。
この大陸にPFSの支局はない。そうなると、それに代わるものを作らなければならない。
ラルは、この本部をその代わりにできないかと考え、密かに調査しているのだ。
そのため、アディから療養所内をチェックしてほしいと言われたときは、喜んで引き受けた。
そして順調に事が運び、少しずつ環境が整ってきたころ、手持ちの資料が足らなくなってきたので、ショウにPFSから資料を取り寄せてもらおうと思ったのだが、なかなか話せる機会がなかった。
ナディアたちが四六時中ショウの傍にいるからだ。
そうなると、当然、別行動するようになる。
そんな二人の行動に気付いたアディが、リサーチルームにいるラルに声を掛けてきた。
「ナディアたちが何かしてきたのか?」
「アディ」
「このところ、ショウと一緒にいるところを見掛けないし、君の後を付けてる女性たちを何回か見掛けたから」
「彼女たちはショウの取り巻き。仕事のパートナーの私は彼女たちの天敵なんですって」
「天敵?」
「ショウを独り占めしないでくれと言われたわ」
「独り占めね」クスクス笑うので「笑い事じゃないわよ。これじゃ仕事に支障がでるわ。現に、PFSから取り寄せてほしい資料を頼めないんだもの」困った顔をするとアディは笑いを引っ込めて「そこまでひどいのか。僕からもナディアに注意しとくよ。資料のことは彼に直接言っておくから」
「ナディアがあなたの言うことを聞いてくれると嬉しいんだけど」
「仕事が第一だからね。君たちの戦力を失うことは、避けなければならないことだ」
しかし、恋のパワーを妨げるものはこの世に存在しないらしい。一向に収まる気配がなかった。
二日後の朝、ラルのノートPCにショウから添付資料つきのメールが来ていた。
「何かしら?」
メールを開けると、
ラルへ
ご要望の資料、全部取り寄せておいた。
他に欲しい資料があったら言ってくれ。
ショウ
「これは、これは、ご丁寧におありがとうございます」
ラルはノートPCを持つと部屋から出てラウンジへ行き、お茶を飲みながら、添付資料の内容に目を通しはじめた。




