25-3 マーガの森に起こる異変の原因
この話を聞いたとき、ラルには思い当たることがあったので、テッドと別れた後、印の付いている道を通って湖へ向かった。
その湖はとても深い青色をしていたので、岸に近いところから急に深くなっているということがわかる。
そして、湖の周りに生えている木々が何本もの蔦を湖面に降ろし、ブラインドを作っていた。
湖畔にラルが立つと岸から三メートルくらい先の水面が光りだし、そこから女性が顔を出した。
彼女は紺色の長い髪を編み込んで左肩から前へおろし、キラキラ光る真珠のようなネックレスを三重にして、首から掛けている。
『お久しぶりですわね、ラル』
「ウィルシー! なぜあなたがここにいるの?」
『わたくしたちも、されるがままではいられませんもの』
「だからって、ここは敵地なのよ。それも中枢でしょう?」
『知ってますわ。ですから来ましたのよ』
「……そう、この森を操って、入ってくる人間を追い返してたのはあなたね?」
『そうですわ』
彼女はフロス アクアエ(水の精霊)の女王。
シンシアが水の貴族の代表側だとしたら、ウィルシーはフロス アクアエ側の代表。
「シンシアが本部で療養してることは知ってる?」
『もちろんですわ。それで、お加減はいかがですの?』
「さっき会ってきたけど、元気そうよ」
『そうですの。よかったですわ』ホッと笑みを漏らす。
「あなたがこの森を操ってるのなら、聞きたいことがあるの。アディたちをここに居つかせたのはなぜ?」
『わたくしたちは影の存在ですわ。ですから、表に出られないわたくしたちの代わりになる人間が必要でしたの』
「あなたのお眼鏡にとまったのが彼だった」
『ええ。彼は大きな力を持っていますわ』
「そうね。それは認める」
『わたくし、いつかキラのメンバーの方が来られると思ってましたのよ。でも、それがあなただとは思いませんでしたわ』
「私も、こんな絡繰りがあるとは思わなかったわ」
『この森はわたくしたちが守りますわ。ですから、何も心配なさらずに動いてください』
「そう言ってくれると心強いわね」
『でも、無茶だけはなさらないでくださいね』
「わかってるつもりよ」
その後、基地へ戻ったラルは、森の絡繰りをショウには話さなかったが、彼は彼女が話すまで聞かないような節があった。時々「どうしてここには他の人間が入ってこないんだろうな」と聞くことがあったからだ。
「テッドが調査してるから、そのうちわかるわよ」ラルはいつもこう答えていた。
数日後、ラルが湖へ行くとまた湖面が光り、ウィルシーが顔をだす。
『浮かないお顔をなさって、何かありましたの?』
「ちょっとイヤなことがあっただけよ」畔に座ると『早くご機嫌を直してくださいね。でも、来てくださってよかったですわ。お知らせしたいことがありますの。数日後に雨が降りますわ。二週間くらいと聞いてますの。ひどい雨になりそうなんですって』
「まだ気流は流れてるの!」
『ええ』ウィルシーが空を見上げると、薄い衣を宙に漂わせ、スカイブルーの髪をなびかせた女性が浮いていた。
「エミア! あなたも来てたの!」




