14 偏屈爺さんが来る店
その日の夜、ラルたちはオヤジさんに連れられて、風変わりな老人が来るという飲み屋に来ていた。
「結構オシャレなお店ね」
店の奥の大きなテーブルに座って中を見回すと、丸太で作られた、いかにも手作りという感じのお店だけに、村人たちから慕われているらしく、ほとんどの席が埋まっている。
「偏屈爺さんが来る店とは思えないが」店内を見るタキに「彼が来るのは遅くなってからだよ。人が疎らにいるくらいでないと入ってこないんだ」向かいに座っているオヤジさんが説明する。
しばらくして、中世時代風のエプロンドレスを着ている店員の一人がお冷を持ってくると「お待たせしてすみません」と断りを入れて注文を聞く。
先にここで作られているという地ビールを頼み、おつまみはオヤジさんに任せると、サナたちは未成年のため、お酒は飲めないのでフレッシュジュースを注文する。
すると、オヤジさんが作っている果物を使用していると、妹のマチが自慢げに話してくれた。
「ここの亭主とは気が合ってね。この店を開くとき、ぜひ使わせてくれと言われたんだよ」
他のテーブルでそのジュースをおいしそうに飲む子供を見て、嬉しそうな顔をする。
運ばれてきた料理は格別目立つような特別料理ではないが、材料の鮮度と店主の腕がすごいのか、都会で食べるものと味が違っていた。
「俺たちが普段食べてるものって、なんなんだろう」鶏の唐揚げを食べるカイが呟くと「これが田舎の特権だよ」オヤジさんが自慢げに答える。
そして、客が疎らになってきたころ、待ち人の老人が入ってきた。
彼はノロノロと入ってくると、カウンターの一番奥に座る。
「もっとガッチリして、怖い顔をしてると思ったんだけどな」想像していた人物像と違っていたらしく、カイが意外そうな顔をすると「見た目は特別目立つような感じではないな」タキの観察が始まる。
見たところ七十代半ばくらいで背が高く、筋肉質のように見えるがガタイがいいというほどではなく、人間嫌いと言うだけあって、近寄りがたい雰囲気がしている。
「だから言っただろう。彼が関わってるというのは違うと」
店主は注文を聞かないで、おつまみと地ビールを前におく。
「なぜ彼はこの店にだけくるんだ?」タキが聞くと「この地ビールの作り方を教えてくれたのが、彼だからだよ」
「すげえ!」カイは地ビールが気に入ったので、感心の目で老人を見る。
「どうだい? これでも彼を疑うかい? 因みに、ここにあるインテリアも彼の作品だよ」
テーブルに置いてある凝った形のランプを指す。
「人嫌いなのに、どうしてこの店にだけ手を貸すんだ?」
「それは私にもわからないね。だけど、ここの亭主とだけは話をするんだよ」
そういうオヤジさんの視線を辿ると、例の老人がここの店主と笑顔で話をしている。
それを確認すると店から出た。
「これで、君たちの疑惑は解けたかな?」
「ああ」タキが返事をすると「それは良かった。確かに風変わりだが、我々においしい飲み物を教えてくれたし、憩いの場所をくれた人だからね」




