1-4 本部への移動
結局、ラルはショウと同じ部屋に泊ることになった。
どこの宿屋も空き部屋がないと断られてしまったのである。
「なんてついてないのかしら?」そのため少々おかんむり。
「この辺りは、午後九時以降の客は泊めないと、さっきスタンが言ってたぞ」
「どうして早く教えてくれないのよ!」
「お前が出ていったあとに聞いたからだ」
「そんな重要なことは、夕食前に言ってほしかったわ」
「別行動されたら困ると言ってただろう」
「……やられた」
「それにしても、若い女性が一人、夜に宿を探しまわるなんて、絶対しないだろう?」
「あら、心配して泊めてくれると思ってたけど」
「それこそ襲われたらどうするんだ!」
「そうね。催眠術を掛けて、警察に自首するようにするわ」
「……なるほど」
「それにしても、簡易ベッドで寝ないといけないなんて」
「俺がいてイヤなんだったら廊下で寝るよ」立ち上がるショウに「いいわよ。廊下で寝て、暴漢にでも襲われたら私のせいになるじゃないの」
「イヤなんだろう?」
「……いいわよ」
「チェ、そんな言われ方されたら気分悪くなる」
「当然のことを言ったまでよ」
「フゥ、俺、また前みたいに扱われるのか?」
「そうならないように頑張ってね」
「……頑張れるかよ」ふてくされて簡易ベッドに横になると「早く寝ろよ。明日は朝が早いんだからな」
翌日、予定時刻に出発した。
「何かあったのか? やけに静かだが、あのあとケンカでもしたのか?」
後部座席の二人が一言も話をしないので、スタンが確認してくる。
「黙ってると気持ち悪いぞ」運転しているカイも気に掛けてくるので「熱風が吹くとどうなるのか、考えてるんだよ」ショウが返事をすると「干からびるな。車ごと」
「車が干からびるって、どうなるんだ?」想像できないショウが反論する。
ラルは、窓の外を見たまま何も喋らなかった。
途中で何回か休憩を取ったが、その度にラルは体調の変化を、ショウは時刻を確認してタブレットに入力すると、午後三時、マーガの森まできた。
「確かに噂になりそうな感じの森だな」薄気味悪い森を見るショウ。
何百年も経っていそうな曲がりくねった幹が、陽の光に当たろうと枝を外へ伸ばしている。
ジープが森に沿って走っているとき、ラルがショウの上着の袖を引っ張るので「どうした?」小声で聞くと「ヌメッとする」
「結界か?」
「たぶん」
「わかった」タブレットの電源を入れると地図をだし、印をつける。
その後、ジープは途中で二手に分かれる道を、森の中へと続く薄暗いほうへ曲がって進む。
道は森の中へ入ると急に悪くなり、ガタガタと揺れながら奥へ奥へと進んでいく。
カイがハンドルを取られないように速度を落として運転するが、鬱蒼と茂った草木が道の至るところに張り出していて、陽の光が僅かしか届かないため薄暗く、運転しずらくなっていく。
そこからゆうに一時間は走っただろうか。前方に切り立った崖が現れた。
「すごい高さだな」見上げるショウに「フロッティー山脈だよ」カイが説明する。
この大陸の東側にそびえる山脈。
「どうやら、この山脈のどこかにアジトがありそうだな」ラルに声を掛けると「姿を変えることができるようになった」額の絆創膏が剥がされているので「どこから?」
「森の手前、結界に入ってから」
「やっぱり、この森には何かありそうだな」




