57-3 決められないこと
時刻はもうすぐ午後十一時を回ろうとしている。
この時間、外を歩いているのは飲み屋で飲んでいた人くらいなので、人通りのない道を選んで目的の雑木林へ行くと、タブレットを確認して奥へ進んでいく。
周りに光を出すものがないため星空がきれいに見えるが、そんな余裕はなかった。
早くラルを見つけることに集中していたため、周りの木々の幹が光りを放っていることにすら気付いていない。
「この奥だな。ラル! ラル! アッ!」
顔を上げたところで木の幹が光っていることに気付き、その光が道標のように奥へ続いている。
「ラルのいるところへ案内してくれるのか?」
ショウは半信半疑で光る幹に付いて進んでいくと、いつの間にか森の中へ入っていた。
「あの雑木林の奥に、こんな森があったのか」
ところどころ月明かりが差し込み、道案内の光る幹のお陰で転ぶことなく進んでいくと、小さな広場の先、大木の根元にしゃがむラルの姿が見えてきた。
ラルはまた、大木から気のエネルギーを分けてもらっていたのだ。
ショウは終わるまで森の出口で立ち止まり、ラルが立ち上がると傍へ行って声を掛けた。
「ラル」
すると驚くラルが振り返り「ショウ!」
「終わったのか?」
「……」
「少しは体調が良くなったか?」
「……どうして、ここにいるとわかったの?」
「まあ、いいじゃないか」
「……発信器?」
「姿を変えることができそうか?」
「……」
「ダメか。仕方ないな。だったら早く戻ろう」
「……」
「ほら、帰るぞ」
「……」
「なんだよ」
「なんで、怒らないの?」
「なんで怒らないといけないんだよ」
「だって、こんな姿で、黙って、出てきたんだよ」
「そうだな。村の人に見付かったらどうするつもりだったんだ?」
「……」
「とにかく、早く戻ろう」ラルの手を取るとまた幹が光りだすので、道案内の通りに引き返していく。
雑木林から出ると、遠回りになるが店のない通りを選び、家に戻った。
リビングのテーブルに座ると「この土地の気との相性はどうだ? 何か副作用は出てないか?」
「今のところ、大丈夫」
「そうか。速足で戻ってきたから喉が渇いたな。何か冷たいものでも飲むか」
キッチンへ行くと、冷蔵庫で冷やしておいたノンカフェインのお茶をグラスに入れ、持ってくるとラルの前に置く。
「それを飲んだら寝ろよ」
グラスを取るラルが「どこに発信器を付けたの?」
「それは言えない」
「ショウ」
「今回のようなことが起きないとわかったら取ってやる」
「それは……」
「ほら、早く飲んで寝ろよ」
「なんで怒らないの?」
「さっき答えただろう?」
「……なんで、あそこに行ったか聞かないの?」
「気をもらいに行ったとわかったから」
「なんで、気をもらいに行ったか聞かないの?」
「……」
「わかってるんだ」
「……前にも言っただろう? 俺の前から黙って消えたら、どんなことをしても捜しだすって」
「私は、ショウが行けないところに、行くことができるんだよ」
「どうして俺が……いや、いい」
「なんで言わないの?」
「……ここでまた押し問答したら、またお前を追い詰める……」
「……」
「ほら、早く飲まないと温くなるぞ」




