57-1 決められないこと
食後、キッチンでお茶を入れきたショウが「グロサリーストアの奥さんが、たくさんスイーツを持ってきてくれたから、冷蔵庫から好きなものを取ってきな」と言うと、ラルは目を輝かせてキッチンへ走っていく。
「走るなと言ってるだろう! 歩け!」
注意しつつお茶を入れて待っていると、なかなか戻ってこない。
「また冷蔵庫を開けっぱなしにして、悩んでるんじゃないだろうな」キッチンへ行くと、ラルは冷蔵庫の扉を最小限にあけて、中に並んでいるスイーツを見ている。
「ラル、なに冷蔵庫の中をのぞき見してるんだ」
「あ……」
「決められないんだったら、食べたことのないものにすればいいだろう」
「全部、食べたことない」
「エッ? 全部?」冷蔵庫を開けると、秋の果物を使ったスイーツが並んでいるので「確かに。今日は夕飯が少し遅かったから、軽めのものにして、明日の朝、ガッツリ食べればいいだろう?」
「そうだね」改めて冷蔵庫の中を見ると、梨と黄桃のゼリーを取る。
「じゃあ、俺も一つ食べるか」二種類のグレープが入ったゼリーを取ると「アアッ! それ明日食べようと思ってたのに!」
「じゃあ、半分やるから、ラルのも半分よこせよ」
「半分こ」
スプーンを持ってリビングへ戻ると、ゼリーを半分に分けて食べはじめる。
途中で「まだここにいたいな」ラルが呟くので「スイーツが食べたいから?」
「うん!」
「ミランドやイータル ヴェンティたちからクレームが来るぞ」
「ここにいたら、みんな食べられる」
「……確かに」
「普通にここで暮らしていられたらいいのに……」
「……この戦いが終わったら、ここで暮らすか?」
「エッ?」
「ここで一緒に暮らすか?」
「……それは……」
「仕事はネットでいくらでもできるから、金の心配はいらないぞ」
「……」
「この村なら滅多なことじゃよそ者は来ないから、静かに暮らせるしな」
「……ショウは、都会のほうが、いいんじゃない?」
「なんで?」
「遊ぶ場所とか、飲みに行くお店があるほうが、いいんじゃないの?」
「この村にもバーはあるぞ」
「買い物とか、友達と会うとか……」
「たまにはそう思うかもな」
「……だよね」
「ラルが都会にいて大丈夫ならそっちへ行くけど、いいのか?」
「私のことはいい」
「どういいんだ?」
「……私に合わせることない」
「なんで」
「別に、ずっと一緒にいなきゃいけないわけじゃないから」
「なんで」
「……なんでばっか」
「ラルがわけわかんないこと言うからだろう」
「わけわかんないことなんか言ってない」
「言ってんじゃん」
「……言ってないもん」
「タオルケットなくなるぞ」
「ダメ!」




