54 タオルケット
ラルが部屋に戻って少し経つと、気になるショウが部屋を覗きにいく。
「ラル、入るぞ」
一応ノックして部屋に入ると、ラルはベッドの上にすわり、ふて腐れた顔をしてショウを睨みつける。
「……すげえ顔してんな。そんなにシャツを洗ったことに腹を立ててるのか? 仕方ねえな。ちょっと待ってろ」
一旦、部屋から出て戻ってくると、手にタオルケットを持っていた。
「ほら、俺のタオルケットでいいだろう?」
ラルは渋々受け取ると、自分のタオルケットをショウに渡す。
「この前、タオルケットを持ってきたとき、ラルのベッドに寝かせろと言って無理矢理添い寝したから、それをさせないようにしようとしてるのか?」
受け取らないでいるとタオルケットを押し付けてくるので「今寝ないから使わねえよ」と言うと、ゆっくりベッドの端におく。
「いや、ラルが使ってるタオルケットがイヤだとは言ってない。今使わないから、ラルが使えばいいと言ってるんだ」ラルのタオルケットを持つとベッドに腰かけ「ほら、横になって寝ろ。昼寝の時間が過ぎちゃうだろう」
ベッドに横になるよう言うとゆっくり動くので「明日から忙しくなるから、ゆっくり寝られるときに寝ておけよ」
ラルはショウのタオルケットを握っているので、ラルのタオルケットを肩まで掛けると「夕飯前に起こしにくるから」と言ったときには、すでに眠っていた。
「タオルケットを握って秒で寝るなんて、赤ん坊のようだな」フードを持ち上げて顔を見ると、ショウのタオルケットに顔をうずめて、安心した顔をして寝ている。
「なにも、タオルケットにキスしなくてもいいだろう。確かに、肌触りのいい素材でできてるけどさ」
サイドテーブルに置いてあるリモコンをとり、部屋の温度を調節すると「お子様ラルちゃんに手を出すわけにいかないからな」
ラルの年齢は知らないが、自分より年下なことは確かなので、イヤな思いをさせないように気を遣っている。
「女性に年を聞くなんて失礼!」とか言われそうなので、聞くのを控えているが「誕生日くらいなら聞けるか?」
ラルがシルバーフェニックス王国で位の高い女性だとわかって以来、なんとなく、心の隅に個人情報に関することを聞いてはいけないんじゃないか、という思いが居座っている。
聞いたことによって、また毒を飲もうとするんじゃないかという恐怖が付いてくるからだ。
あの時は力任せにラルの腕を掴んだので、少しアザができでしまっていた。
(もう、二度とあんなことはさせないようにしないといけないからな)
ラルの右手の薬指には今も蓋つきの指輪が填まっていて、握っているタオルケットの間から、少しだけ見える。
(王族や貴族は全員、同じような指輪をしてるんだろうか?)そう思うと(ではシンシアも?)
もし彼女も同じような指輪をしていたら、この推測は当たっていることになる。
(そこまでして、いや、そこまでするくらい、彼らはダメージを受けてるってことだ)
まだまだ彼らの現状は厳しいが、手元にいるラルには、少しでも安心できる場所を作ってあげることが自分の使命だと感じはじめ、フードの上からラルの頭を撫でる。




