52-1 再確認
「それで、自己催眠を掛けるのはいつなんだ?」
「夜、寝る前に掛ける。明日の朝起きたら、催眠が掛かるようにしようと思ってる」
「そうか。じゃあ、今日いっぱいはラル本来の性格でいるのか」
「……うん」
「あんまり暴力振るうなよ」
「……うん」
「また、いいように振り回されるのか」
「……ごめん、なさい……」
「そうじゃない! 言い返してみろ、くらい言えって」
「……そんな、こと、言えない……」
「じゃあ、自己催眠なんか掛けるな!」
「あ……ご、ごめ……」
「ごめん! 言い過ぎた! 悪かった」
「あ、あの……」
「本当にゴメン……」
「……あ……あの……」
「本当に悪かった!」慌てて隣に行くと涙を拭き「本当は、自己催眠なんか掛けて、変わってほしくないんだよ。今のままでいてほしいんだ」
「だ、だから……」
「今度言ったら大陸から連れ出すと言っただろう!」
「で、でも……」
「今の立場やいろんな裏事情があるのはわかってる。その事がネックになって、制限された中で動かなければならないことも、なんとなくわかる。だから、自己催眠を掛けなければ先に進めないことも、わかってるよ。わかってる」
「……ショウ」
「自己催眠で変わってしまったら、あの強いキラになってしまったら、俺は必要とされなくなるんじゃないかと思うと……それがイヤなんだよ」
「そんなことない! ショウがいてくれたからここまでこれた! 姿が戻ってしまっても、捕まることなくいられるのはショウがいてくれるから! 私一人だったら絶対捕まってた!」
「そう思ってくれるなら、自己催眠なんか掛けるなよ」
「それは……」
「俺も、カイがくれたその液体を飲んだほうがいいのかもな」
「……昨日、ミランドと、いろいろ話した。
彼女は、私たちの国のことも私の立場も知ってるから、今の私の立ち位置を理解してくれてる。
そのうえで、どう行動したらいいかとか、どういうふうに考えたほうがいいか、アドバイスしてくれる。
それで、私も気持ちが少し楽になっていった。
話の途中で、私が自己催眠を掛けようと思ってると話したら、ミランドは最初、反対したの。
そんなことする必要ないって。
でも、今の精神状態を正直に話したら、今を乗り切るために、一時だけ、自己催眠で回避することに賛成してくれた。
ただし、ショウに納得してもらうことが条件だって。
だから、二人でちゃんと話し合えって」
「……そうだったのか」
「だけど、ショウに話せることが少ないから、私のワガママになってしまうかもしれない」
「お前のワガママだと思ったことはない。むしろ、それしか取るべき方法がないから、仕方ないと思ってる」
「……」
「自己催眠を掛けることを承諾する条件として、いくつかある。一つは、暴力を振るうな」
「……たぶん、気を付ける」
「無理そうだが、守れよ。二つ目に、一人で勝手に行動するな」
「……手帳に書いておく」
「これでもか、というくらい、でかく書いとけよ。第三に、俺の近くにいろ」
「エッ?」
「俺の、目の届く範囲にいろ」
「……それは……」
「いいな! 絶対守れよ!」
「……」
「守れなければ反対だ!」
「……」
「手帳に書いておけ」
「……」
「返事は?」
「……」
「返事ができないなら、承諾できない」
「……」
「ラル、返事は?」
「……」
「ほら、返事をしろよ」
「……」
「目の届くところにいないと、無謀なことをしようとするお前を止められないだろう?」
「……そ、そうだね……また、迷惑、かけちゃう、ね……」
「迷惑ならいくらでも掛けていい。ただし、俺の前から消えるなよ」
「エッ?」
「もしいなくなったら、どんなことをしても捜しだすからな」
「……ショウ」
「いいな」




