50-4 先に進めない理由
それから一時間近くがたった頃、ショウの携帯にミランドから電話がかかってきた。
「ミランドか?」
“今、少し話せる? “
「もちろん」
“今、ラルといろいろ話したの。あなたに言えない事だから、どんなことか話せないけど ”
「わかってる。だから、部屋で話すように言ったんだ」
“そうだと思った”
「それで?」
“あなたは反対したそうだけど、組織の本部へ来るまで、というより、私たちと合流するまで、一旦、自己催眠で別人格になったほうがいいという話になったの ”
「なんだって?」
“組織のメンバーのカイから、メンタルに効く液体をもらったと言ってたけど、その液体はシンシアも飲むよう渡されて、食後に飲んで落ち着いてるから、ラルにも効くと思う ”
「ヘェ、組織では彼らの治療薬として使ってるのか。俺も説明書を読んでネットでも調べたけど、安全性は高いみたいだから、ラルに飲ませたよ」
“さっき、ラルからも飲んだと聞いたから今の気分を聞いたら、心に感じてる重さが少し軽くなったと言ってた。だから、効果が出てると思う”
「そうか。それは良かった」
“でも、本部へ移動する間とか、本部に来てからのことを考えると、大勢の人間に囲まれることになるから、自己催眠で別人格になったほうがいいと思う”
「ミランドから見た本部の様子はどんな感じだ?」
“私たちは真っ直ぐ別棟へ連れていかれたから、本部内はほとんどわからないけど、周りは全員人間だからね。それだけでも対応したほうがいい理由になると思う”
「そうだな。そこにはどのくらいの人数がいるんだ?」
“全体がわからないから何とも言えないけど、かなりの人数がいると思う”
「そんなに大規模な組織なのか?」
”建物自体が広いの。さすが本部と言うだけあるわって思うくらい”
「崖の中に建物があるから、近くに行かないとわからないとイータル ヴェンティが言ってたんだろう?」
”そうよ”
「想像できないな」
”来ればわかるわよ”
「そうだな」
“話を戻すけど、ラルには催眠の解除コードを私にも教えてくれることを条件で、あなたを説得する役を引き受けたの”
「なるほどな。電話が来た時点で何かあると思ったけど、そういうことか」
“出発は明後日。明日は二人で話をして。今日は遅いから、ラルには寝るよう言ってある”
「そうか」
“別人格はあなたの嫌いな性格らしいわね。ラルが、またショウに嫌われると言って落ち込んでたわ”
「ああいう奴は嫌いだ」
“だからと言って、冷たい態度は取らないでね”
「……努力する」
“ラルも、本当はそんなことしたくないのよ。そこは理解してあげて”
「わかってるよ。だから、そんなことしなくてもいいように、何かいい方法がないか考えてたんだ」
“いい方法があったの?”
「……いや」
“……そう。とにかく、ちゃんと話をしてね。出発するときメールして”
「ああ、いろいろありがとう」
“じゃあ、本部で待ってるから”




