50-2 先に進めない理由
家に入ると、ラルが朝食の支度をしてリビングのテーブルに座っていた。
PCで何か調べものをしているようなので「もう起きてたのか? 無理しないで寝てろよ」
「いつも同じ時間に起きてたから、目が覚めた」
「そうか。グロサリーストアの奥さんに朝食をもらってきた」バスケットをテーブルに置くと蓋をあけ、中からタッパーを出す。
(また声が出なくなるんじゃないかと思ったけど、大丈夫だったようだな)
ホッとして用意してある平皿におかずを乗せていくと「出発は午前十時だよね?」
「エッ? ああ、俺たちは一週間後になった」
「どうして?」
「お前の体調を考えて、遅らせてほしいと話をしてきた」
「じゃあ、ショウは先に行って。シンシアたちは今日、本部に着くだろうから、早く治療が受けられるようにしてあげて」
「彼女の対応はミランドに伝えて、俺たちが行くまで対応してもらうようメールする」
「それじゃダメだよ。本部がどんな所なのかわからないんだから」
「仕方ないだろう。今はできる対応をこなすしかないんだ」
「だから、本部へ連れていくことに反対したのに」
「いまさら言っても仕方ないだろう。大丈夫だ。向こうにはイータル ヴェンティたちも付いてる。何かあれば対応してくれる」
「イータル ヴェンティたちは、風の通りがないと建物の中に入れない。室内には入れないんだよ」
「だからと言って、ミランドがいない今、お前一人置いて俺だけ先に行けるわけないだろう?」
「……どうしよう……」
「とにかく、グループに連絡を入れておく。さあ、しっかり食べて薬を飲むんだ。動けるようになることが先決なんだから」
「……うん」
朝食後、お茶を飲みながらスイーツを食べると「おいしい」沈んでいたラルが笑顔になるので「まったく、奥さんのスイーツが一番ラルには効くな」
今日は大きなイチゴが乗ったムースで、一口ずつ味わって食べる。
薬を飲んだ後、部屋へ戻ってベッドに横になっていると、ラルの部屋でPCを操作していたショウの携帯にメールが来た。
「ジットからか?」出発を遅らせるとメールしていた返信かと思ったが、着信を見るとカイからで、ラルに飲んでほしいものがあるので渡しにいく、というものだった。
どういうことなのか聞くためにカイに電話すると “ 突然メールして悪いな。あんたたちのことを本部に連絡したら、メンタルに効くものがあるから、試してみるよう返事が来たんだ。運よくこの村の薬局にあったから、飲み方の説明を兼ねて、家まで届けてやるよ”
「しかし、メンタルの症状は人それぞれだから、ちゃんと診察を受けてからでないと、薬を選ぶのは難しいんじゃないのか?」
“これは薬じゃねえんだよ。それも説明するから、行っていいか? 場所はグロサリーストアの奥さんから聞いたから”
「ああ、わかった」電話を切ると「ラル、カイがこれから、メンタルに効くというものを持ってきてくれるそうだ。なんか薬じゃないらしいけど、念のためにチップを付けといてくれ」
「あ、うん」自室へ行くと、チップを付けて戻ってくる。




