49-2 五大要素の貴族
「まだ、グロサリーストアの奥さんのスイーツを食べていたい」
「そうだな。また縁があって、こられるといいな」
「……うん」
「さあ、食べ終わったら寝ないと。明日はいよいよ組織の本部へ行く日だ。ここからかなり離れたところにあるらしいから、体調に注意しないとな」
「その事なんだけど、まだ姿を変えられないから、残ろうと思ってる」
「それはダメだとカイが言ってただろう? 組織に関して、必要以上に内情を知ってしまった者を放置することができないからだろう」
「でも、今の精神状態だと、何かあったら持ち堪えられない……」
「そういえば、突然、姿が元に戻ってしまうことも、原因がわからないままだな。前にラルが言ってたように、例の鏡のエネルギーを放出してるってことも、可能性としてはあるかもしれないが、広範囲をカバーできるか疑問が残る。他に、何か気付いたことはないのか?」
「それどころじゃなかったから……」
「そうだな。あの後、話せなくなってしまったのは痛かったな。しかし、ミランドがいてくれたことは大きかった」
「……やっぱり、同じ立場側の誰かがいてくれると、気を張らなくていい気がして」
「なるほど。まあ、ラルの立場から考えると、一人ってのは緊張が続くな」
「……」
「そこでだ。シンシアがこの大陸から出るとき、ラルも一緒に出て、保護施設で少し休んだほうがいいんじゃないか?」
「それはできないって何回も言ってるでしょう?」
「俺にも言えない重要な理由があるらしいが、だからといって、潰れてしまったら元子もないじゃないか。潰れるまで救出活動しろってルールなのか?」
「だから、それは、言えないって」
「言わないんだったら、無理やり連れだすぞ」
「ショウ」
「一体、何名のキラのメンバーがこの大陸に来てるんだ? ラルは知ってるんだろう? なぜ教えてくれないんだ?」
「……」
「またダンマリか?」
「……」
「これじゃ、手の打ちようがないじゃないか」
「……だから」
「ダメだ」
「……」
「今度言ったら、有無を言わせず大陸から連れ出すぞ」
「だから、それはダメだって」
「しったこっちゃねえ」
「ショウ!」
「お前一人大陸から出たって、支障ないだろう?」
「……それは」
「……それは?」
「……そ、それ、は……」
「お前が大陸から出たら、何が起こるんだ?」
「それ、は……それ、は……」
「わかった。質問を変える。お前が大陸から出たら、何か起こるのか?」
「あ……それは……」
「わかった。なにか起こるんだな。だから、どうしても出られない」
「……それは……それ、は……」
「もういい。他の手を考える」
「それは……それ、は……」
「ラル。もういいから」
「あ……それ、は……そ、それ、は……」
「しまった。ラル、もう考えなくていいから」慌てて隣へ行くと、落ち着かせるように背中を擦る。
「そ、それ、は……」
「悪かった。もう聞かないから」
「あ……そ、それは……」
「ごめん。しつこく聞きすぎた。もう聞かないから」
「あ……あ……」
「ごめん、ごめん。お茶を飲んで、落ち着こう」温くなったお茶を飲ませ、また背中を擦ると、少しずつ平静を取り戻していく。
しばらくして落ち着きを取り戻すとそのまま部屋へ連れていき、ベッドに寝かせると、ショウのシャツを掴んで横になる。
「まだこのシャツを持ってたのか。新しいのを持ってくるから」ラルが掴んでいるシャツを取ろうとすると離さないので、そのまま持たせると、自分の部屋に置いてあるバッグからシャツを取りだし「ほら、古いシャツと交換だ」新しいシャツを渡すと交換に応じる。
ラルは、新しいシャツの匂いを嗅ぐと落ち着いたのか、ホッとした顔をして目を閉じ、しばらくすると眠りに就いた。
ショウはラルが深く眠るまでベッド脇に座り、頭を撫で続けると「明日の出発は遅らせよう。さすがにこの状態で連れまわすことはできない」




