18 追跡
「迷惑だと言われて、大人しく引き下がるわけないだろうが」
ショウは一台の車を追って郊外へ向かっていた。
もちろん、キラの車を追っている。
「しかし、ずいぶんと遠くへ行くな」
もう四十分は走っている。
そして、車の数が少なくなってきて、尾行するのが辛くなってきたとき、キラの車が狭い路地へ入っていった。
二、三回角を曲がると小さな駐車場に入る。
「この辺のマンションが住処なのか?」
見付からない所まで戻って車を停めると急いで駐車場へ行き、キラがどこへ行くのか様子を伺っていると、サーシュを抱えた彼女が隣接するマンションの中へ入っていくので、あとを追って中に入ると、一台のエレベーターが動いていた。
「さて、何階に止まるかな?」
今は午前一時半。
中心街から外れた住宅地に建つマンションでは、余程のことがないかぎり、この時間、外を出歩かないだろう。
「別人という確率は低いな」
そのエレベーターは八階で止まった。
ショウは戻ってきたエレベーターで七階まで上がり、八階には階段で行くと通路に誰もいないことを確かめ、一つずつ表札を見ていく。
しかし、全部見終わってもキラの名前はなかった。まあ、普通は苗字が書いてあるから、キラとしか知らないショウにわかるはずがない。
しかも、偽名である確率が高い。
「参ったな」ため息を吐くが「まいっか。居所は掴めたんだ。明日出直そう」
マンションから出て車のところへ戻ると「あれ? 車がない!」辺りを見回して「確かにここだったよな」
ふと下を見ると、道路にチョークでこう書いてあった。
『車はレッカー移動しました。持ち主は最寄りの警察署へ取りに来てください』
「マジかよ!」
運悪く、見回りのパトカーに路上駐車しているのを見付かってしまったらしい。
「なんでこうなるんだよ!」
それにしても、ここに車を停めておいたのはせいぜい十五分程度。
余程ここら辺は路上駐車が多いらしい。対応が早過ぎる。
ショウは出向いた警察署で説教され、罰金を払うと解放された。
次の日の午前七時前。
泊まっていたビジネスホテルをチェックアウトすると、キラが住むマンションへ向かった。
今回は、警察で教えられた近くの指定駐車場に車を停める。
「この時間だったら起きてるだろう」
腕時計を見て時間を確認すると車から降り、マンションへ入ると八階へ上がった。
「さて、どうしたものか」
ズラッと並ぶドアを見て「端の人に聞いてみるか」一番手前の部屋の呼び鈴を鳴らす。
少ししてチェーンロックをしたままドアが開くと、隙間から四十代くらいの女性が顔を出し「どちら様でしょうか?」小声で聞いてくる。
「朝早くにすみません。ちょっとお聞きしたいことがあるのですが」努めてにこやかに声を掛けると「……どのようなことですか?」
「この階に、キラという二十代の女性が住んでると思うんですが、何号室なのか教えていただけませんか?」
「……どのようなご関係の方ですか?」
「ああ、僕は会社の同僚です。クリーニング店の」
「まあ、そうなんですか。ちょっとお待ちください」
女性は一旦ドアを閉めるとチェーンロックを外し、再びドアを開け「失礼しました」と言って少し頭を下げる。
「いえ、突然お邪魔しましたから」
「あの、キラさんに何か?」
「忘れ物を届けにきたんですが、最後まで住所を書いてこなかったものですから、何号室なのかわからなくて」
「まあ、それは困ったわ。彼女、今朝早くに引っ越されたんですよ」
「エッ、引っ越した?」
「お店に言ってなかったんですか?」
「い、いえ、朝早ければいると思ったものですから」
「そうなんですか。実家に帰るようなことを言ってたんですけど、どこなのか聞いてないんですよ。あまり親しくなかったものですから」
「……そうですか」
「ごめんなさいね。お役に立てなくて」
「いえ、ありがとうございました」お礼を言うとエレベーターに向かった。
マンションから出ると駐車場へ戻り、車に乗ると、後部座席からバッグを取って中からノートブックを出し、開いて電源を入れる。
キーを叩くと、モニターに赤い点が映った。
「オッ、動いてる。昨夜の内に、キラの車に発信器を付けといて正解だったな」




