36-1 イータル ヴェンティからの報告
数日後、調査に行っていたイータル ヴェンティが南の海域の調査を終えて戻ってきた。
お昼前に庭のテーブルに置いてある呼び出し用のベルが鳴るので、ミランドとショウが庭に出ると、テーブルに座って待っていた。
「お疲れ様でした」声を掛けるショウが「何か飲むか? 紅茶くらいなら入れてくるよ」
『ありがとうございます。温かいものがいいです』
『私も、お願いします』と言うので、ミランドに話を聞いてもらい、ショウはキッチンへ行ってお茶の支度をはじめる。
そこへ「ああ?」ラルがキッチンへ来るので「イータル ヴェンティたち用のお茶だよ」
「ああ!」
「話はミランドに聞いてもらってるから、あとで映像を見せてもらおう」
「ああ」
その後、ティーセットを持って庭にいくと、向かい合って話しているミランドが話に聞き入っているので「何かあったのか?」
『ああ。実は、彼女たちが戻ってくる途中で、意外な光景を見たらしいの』
「意外な光景?」お茶を入れて順番に渡していくと、イータル ヴェンティの片方が『帰ってくるとき、ここの領土の隣の領土の上を通ってきたんですけど、領主の館の上を通ったとき、中庭の大きな噴水に、フロス アクアエがいたんです』
「フロス アクアエって、確か、水の精霊だっけ?」ミランドの隣に座る。
『はい、そうです』
「フロス アクアエがいることが意外なことなのか? 噴水のところなら水があるだろう?」
『彼女たちは、水のところに瞬間移動することはできないのよ』ミランドが補足する。『中庭の噴水のところまで、外からの経路がないと行けないし、そんな狭い場所に行くからには、何かしらの理由があると思う』
「なるほど。君たちが意外に思ったのは、なぜ、そんな帰路が断たれるかもしれない建物中の噴水のところにいたのか、ということか」
『はい。なぜそんなところにいるのか聞きに行こうと思ったんですが、近くに警備員が数名いたので、近づくことができませんでした』
「君たちの姿は人間には見えないだろう?」
『それはそうですが……』
『なんであなたには見えるのかしら?』ミランドがショウを見るので「ああ、そうだな。なんで俺には見えるんだろう?」
『精霊だった?』
「ハハハッ! まさか!」
『まあ、その事は置いといて、噴水のところにいたフロス アクアエは何名いたの?』
『三名です。何やら慌てているようだったので、ちょっと心配です』
『向こうはあなたたちに気付いた?』
『いえ。そんな余裕はなさそうでした』
『そう。気になるわね』
「もし体力的にきつくなかったら、夜にもう一度領主の館に行って、まだ噴水のところにフロス アクアエがいたら、何が起きてるのか、理由を聞いてきてくれないか?」
『ほかの調査が遅れてしまいますが』
「フロス アクアエのほうが気になる。何か事件に巻き込まれてたりしたら大変だし、他に理由があるなら、どういうことなのか知りたい」
『わかりました。今夜行ってきます』
「では、戻ってきたら、またベルを鳴らしてくれ」
『はい』




