17-3 敵地の中の隠れ蓑
ショウは家の戸締りを確認するとラルの部屋へ向かい、ドアをノックすると、返事を待たずに中に入る。
すると、ラルはベッドに横になっておらず、荷物をバッグに詰めているところだった。
「なにをしてるんだ」ラルの手を止めると抱きあげ、ベッドへ運ぶ。
「なにをしてるんだ?」
「……あの、荷物の整理を……」
「こんなときに、荷物の整理が必要か?」
「荷物の、整理……」
「どこまで心配させるんだ」
「だから……」
「そんな姿でどこへ行く気なんだ」
「……」
「何も考えず、何の心配もしないで寝てろ。いいな」
「ごめん、なさい……」
「これから謝ることは禁止だ」
「あの……あの……」
「いいな」
ラルは俯くとゆっくりベッドに横になるので、ショウは流れ落ちるラルの涙を拭くと「ずっと傍にいるから、何も心配するな」隣に横になるとタオルケットを掛け「おやすみ」耳元で声を掛けると頭を撫でる。
「こんなこと、しなくていい」ショウの腕をどけると「なんで」
「しなくていい」
「なんで」
「大人しく、寝てるから」
「じゃあ、お前が寝たら部屋に戻る」
「ちゃんと寝るから」ショウから離れると引き戻され「いいから寝ろ。夕べもあまり寝てないんだろう?」
「それは……考えごとしてたから……」
「だから、何も考えずに寝ろと言ってるんだ」
「そんなの、無理だよ」
「無理じゃない。ほら」抱き寄せてタオルケットを掛けると「いいよ」払いのけるので「いいから寝ろ」上から覆いかぶさって動きを止める。
「あ……ああっ……」
「ああ! 悪かった!」慌てて退くと「悪かった。もうしないから」
「……うん」
「ごめん」と言ってまた抱き寄せると、ラルの頭を撫ではじめる。
ラルは一旦ショウの顔を見ると俯き、ショウのシャツを両手でつかむ。
(いつも傍にある匂い。ショウの匂い。
わかってる。ショウは絶対、嫌がることはしない)
きついことを言うときがあるが、それは、危険に近づかないようにするためだということはわかっている。
(すべて、私のためを思って言ってくれてるのはわかってる)
(今だけ、今だけここにいたい)
ショウの腕の中が一番居心地がいいのがわかっているだけに、いつまでも一緒にいることができないので慣れないようにしているが、今だけは安心して眠りたいので、自分に言い訳する。
一定のリズムを刻むショウの鼓動。
時々、額や頬にキスしてくるのを、気付かないフリをしている。
そして、今も聞こえてくる息遣い。
寝るまでずっと耳元で聞こえる。
寝るまで……




